シーメンスPLMソフトウェアは、2018年8月28日から30日(米国時間)にかけて米国ボストンで「Siemens Industry Analyst Conference 2018」を開催した。同社CEOのトニー・ヘミルガン氏は自身の基調講演の中で、同社の「ビジョン」と「実行能力」、そして「リーダシップ」が明らかに顧客に違いをもたらしていると語った。そして今後のビジョンとして「境界のないイノベーション(ユビキタス・イノベーションとも表現)」を明らかにした。

この背景には今日、製品の「構想」、「現実化(設計・製造)」、「利用」の各段階の境界がなくなってきており、また製品自体に目を向けても機械、電気、ソフトウェアの境界がなくなってきている。破壊的なイノベーションのために顧客自身も境界を崩し始めているように、変化し始めているとの認識を示した。この状況において、従来のCADやCAE、PLMなどの言葉で示されるシステムでは顧客の抱える課題の解決が難しく「より深いインテグレーションが必要」との考えを示し、そのためには「プロセスを深く理解する必要がある。既存のアプリケーションを単につなげるだけでなく、お客さんが何を求めているかを理解してインテグレーションする」とヘミルガン氏は語っている。

現在、同社がフォーカスする分野として、「クローズド・ループのデジタル・ツイン」「ジェネラティブ・エンジニアリング」「電気系のインテグレーション」「自動運転」「アディティブ・マニュファクチャリング」「デジタル・ファクトリー」「産業IoT 」「電気系の製造」「クラウド」の9分野を挙げている。この中でも、ジェネラティブ・エンジニアリングや自動運転、デジタル・ファクトリーではAI(人工知能)を活用したソリューションを視野に入れている。

  • 境界のないイノベーション(ユビキタス・イノベーション)

世界中で増える実績 - ソニーやトヨタも新ビジョンに興味

基調講演では最近のビジネス面での成果としてユーザー事例が紹介され、特に日本ではソニーとトヨタがシーメンスPLMソフトウェアのソリューションに興味をしていることを明らかにした。

ソニーでは、電気と機械、クローズド・マニュファクチャリングを1つに統合するビジョンに興味を持っており、NXとTeamcenterを評価中。これは既存のシステムのリプレースを視野に入れているとのこと。ヘミルガン氏は「現在CADはコモディティ化し、各製品間の違いが小さくなっている」とした上で、「(ソニーが)評価を行った最初の半年間で、25%の効率化を達成した。他のベンダーではできなかったこと」と、同社ソリューションの効果を強調した。

一方、トヨタではCapitalのワイヤハーネスソリューションを導入。モデルベース・エンジニアリングについても興味を持っていることを明らかにした。

他にも米国ヴィステオン社での機械、電気、ソフトウェアの包括的な開発アプローチ、米国ボーイング社が電気系システム、機械系シミュレーションなどのパートナーとして同社を選定したこと、米国の非営利団体ACM(American Center for Mobility)とのパートナーシップで自動運転自動車の普及を推進する活動、またジェネラティブ・エンジニアリング、AI、3Dプリンタを活用して自動車開発を行うスタートアップ企業Hackrod社など、さまざまな業種、企業規模で同社ソリューションの導入が進んでいることをアピールした。

  • シーメンスPLMソフトウェアのトニー・ヘミルガンCEO

    シーメンスPLMソフトウェアのCEOを務めるトニー・ヘミルガン氏

製品のモジュール化、クラウド化を推進

テクノロジーがビジネスのやり方を変える部分に責任を負いたい

「境界のないイノベーション」は、ヘミルガン氏が言う「ユーザーのビジネスモデルも変わってきている。それに順応することが成功の鍵になってきている」こととつながっている言える。

境界をなくすことで、スピードアップが可能なだけでなく、これまでになかったビジネスモデルが生まれる可能性がある。アジア・パシフィック地域のメディア向けのグループインタビューにおいて同氏は「テクノロジーがビジネスのやり方を変えることができ、シーメンスPLMソフトウェアはその部分で責任を負いたい」と語った。

顧客が求めている迅速で柔軟なソリューションには「深いインテグレーションが必要。それには巨大なソフトウェアは必要ない。使いたい機能を使う」とし、同社製品においてモジュール化のアプローチを取り入れ、マイクロサービス、クラウドによって顧客のアジリティ実現をサポートする方針を示した。

また、同社では過去11年間に110億ドルを投資し、製品ポートフォリオの拡充を図ってきたが、今後も継続する方針だ。上記のインタビューにおいてヘミルガン氏は「コアの技術は今の状態で良いと思う」としながらも「小さい規模の買収は今後も続く」ことを明らかにし、今後も投資を継続する分野としてIC、MROサービスを挙げ、コンシューマプロダクト業界のように同社のプレゼンスがあまり大きくない市場での強化にも言及した。