オランダ・デルフト工科大学の学生団体「デルフト・エアロスペース・ロケット・エンジニアリング」(DARE)は2018年7月26日、高度80kmへの到達を目指した大型のハイブリッド・ロケット「ストラトスIII」を打ち上げた。

成功すれば、欧州におけるアマチュア・ロケットの高度記録を塗り替えるとともに、将来の高度100kmの宇宙への到達に向けた、大きな一歩になるはずだった。しかし打ち上げから20秒後、機体は分解し、打ち上げは失敗に終わった。それでも同団体は「この結果を誇りに思う」とし、将来に向けてさらなる挑戦を続ける決意を示す。

さらにいま、ハイブリッド・ロケットによる高度100kmへの挑戦や、衛星打ち上げロケットや有人宇宙船の開発は、世界的に活発化している。

学生でも扱える安全なロケットとして広く普及したハイブリッド・ロケットは、いまや宇宙を狙えるまでになった。

  • DAREが開発した大型ハイブリッド・ロケット「ストラトスIII」の打ち上げ

    DAREが開発した大型ハイブリッド・ロケット「ストラトスIII」の打ち上げ (C) DARE

ハイブリッド・ロケット

まず最初に、ハイブリッド・ロケットについて簡単に紹介したい。

現在主流となっているロケットは、大きく「液体ロケット」と「固体ロケット」の2種類に分けられる。液体や固体というのは、使う推進剤(燃料と酸化剤の総称)の状態を示しており、液体ロケットは液体酸素や液体水素、ケロシンなどを、固体ロケットは一般的に、ゴムと粉の酸化剤、アルミニウムを混ぜたコンポジット推進剤というものを使っている。

両者はそれぞれ長所と短所がある。たとえば液体ロケットは推力を変えたり、燃焼を途中で止めたり、もう一度着火したりできるものの、構造が複雑なため、開発や製造が難しいという欠点がある。一方、固体ロケットは大推力を発揮できるものの、推力を変えたり燃焼を止めたりすることができず、液体ロケットに比べ比推力(燃費のようなもの)も悪く、開発や製造もノウハウの固まりで難しいという欠点がある。

どちらが一概に優れている、劣っているということはなく、開発したいロケットの目的や性能などに合わせて使い分けられている。

そして、固体と液体の両方の推進剤を使うロケットも存在する。それが「ハイブリッド・ロケット」である。

ハイブリッド・ロケットは多くの場合、燃料は固体、酸化剤は液体を使っており、主に燃料にはゴムの一種やポリエチレン、アクリル、酸化剤には液体酸素や亜酸化窒素などが用いられる。

ハイブリッド・ロケットの長所は、液体ロケットと固体ロケットの"いいとこ取り"をしているところにある。つまり液体ロケットほど複雑ではないものの、推力を変えたり噴射を止めたりできる上、固体ロケットほど比推力も悪くない。

もっとも、逆の見方をすれば、それぞれのいいところをつぶし合っている、"悪いところ取り"をしているとも言え、バルブなどやや面倒な部品が必要になる割には液体ロケットほどの性能は出せず、かといって固体ほど大推力も出せず、ハイブリッド・ロケットならではの欠点もあるなど、本質的には液体、固体ほど性能の良いロケットではない。そのため、これまでハイブリッド・ロケットが、液体や固体ロケットに並ぶ、あるいはそれらに代わって主流になることはなかった。

しかし、ハイブリッド・ロケットには液体や固体ロケットにはない、独自の長所がある。それが「低コスト性」と「安全性」である。

前述のように、ハイブリッド・ロケットの燃料にはポリエチレンやアクリルなど、手軽かつ安価に手に入るものが使えるため、高価な液体水素や、製造が難しいコンポジット推進剤に比べ、低いコストで造ることができる。

また、ポリエチレンやアクリルは火薬ではないため、管理や保管のコストも抑えることができ、なにより取り扱いも簡単・安全にできる。もちろん、ロケットである以上、取り扱いを間違えれば大事故につながるが、あくまで液体、固体ロケットと比べれば、安全性は高い。

  • ハイブリッド・ロケットの模式図

    ハイブリッド・ロケットの模式図 (パブリック・ドメイン)

ハイブリッド・ロケットの大型化

こうした背景から、ハイブリッド・ロケットは主に、愛好家や学生団体などで多く打ち上げられてきた。

アマチュア団体にとって、宇宙に届いたり衛星を軌道に乗せたりするロケットは遥か遠くの目標であり、まずはとにかく、ロケットを造って、高度数百mや数kmでもいいので打ち上げる、ということが直近の目標となる。そのため、性能よりも、低コスト性と安全性に長けたハイブリッド・ロケットが使われてきたのである。

とはいえ、ハイブリッド・ロケットといえどもロケットはロケット、技術開発によって、宇宙まで届くほどのものが造れるようになった。詳細は省くが、ハイブリッド・ロケットはその仕組み上、ある程度以上の大型化や大推力化が難しいという欠点がある。それでも燃料の組成や設計を工夫して性能を向上させたり、カーボンなどを使ってロケットの機体を軽くしたりし、より高みを目指す動きが活発化している。

たとえば、ドイツのシュトゥットガルト大学の学生団体「HyEnD」は、独自に推力10kN級のハイブリッド・ロケット・モーターを開発。2016年11月にはこれを積んだ「HEROS 3」というロケットを打ち上げ、高度32.3kmに到達した。

これは欧州のアマチュア団体によるロケットの到達高度としては最も高く、また学生団体のハイブリッド・ロケットの到達高度としては世界一となる記録を打ち立てた。

  • ドイツの学生団体「HyEnD」が打ち上げた「HEROS 3」

    ドイツの学生団体「HyEnD」が打ち上げた「HEROS 3」 (C) DLR