東京工業大学(東工大)は、ルテニウム酸バリウム(BaRuO3)菱面体晶ペロブスカイト触媒が、硫黄化合物のスルフィドから酸素分子(O2)のみを酸素源として、有用なスルホキシドやスルホンを合成できることを発見したことを発表した。

この成果は、東工大科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の原亨和教授、鎌田慶吾准教授と、元素戦略研究センターの熊谷悠特任准教授、フロンティア材料研究所の大場史康教授らによるもので、7月9日に米国科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces」オンライン速報版で公開された。

  • (上)酸素分子のみを酸化剤としたBaRuO3触媒によるスルフィドの選択酸化反応、(左下)BaRuO3の構造、(右下)面共有酸素八面体構造と頂点共有酸素八面体構造の模式図

    (上)酸素分子のみを酸化剤としたBaRuO3触媒によるスルフィドの選択酸化反応、(左下)BaRuO3の構造、(右下)面共有酸素八面体構造と頂点共有酸素八面体構造の模式図(出所:東工大Webサイト)

化学プロセスの3割を占める選択酸化反応は、汎用化成品・プラスチックや医薬品原料などの高付加価値製品の製造において重要な反応である。酸素分子のみを酸化剤とした選択酸化反応は最も理想的な反応であるが、反応制御において今なお多くの課題を抱えている高難度反応のひとつであり、温和な条件で選択的に原料を酸化できる新しい触媒の開発が切望されている。

スルフィドを酸化して得られるスルホキシドやスルホンは、生合成における中間体、不斉反応での配位子、酸素ドナーとして有用な有機硫黄化合物である。しかし、不活性な芳香族スルフィド類を、添加物を用いず酸素分子のみを酸化剤として選択酸化反応させる固体触媒の報告例はほとんどなかった。

原教授らは、実験と理論計算による反応機構を検討し、BaRuO3触媒中の近接するふたつのルテニウムを架橋する酸素原子(面共有酸素八面体構造)が酸化反応に寄与し、温和な条件でも高い触媒性能が発現することを明らかにした。この研究成果は複合酸化物中の反応性の高い特異な酸素原子の活用が高効率酸化反応開発の有用な手法であることを示している。

従来の合成手法では、望みの組成と大きな表面積を併せもつペロブスカイト型酸化物触媒を合成することは困難とされていた。原教授らが独自開発したゾルゲル法により、大きな表面積をもつBaRuO3ナノ粒子を合成でき、温和な条件下においても高い触媒性能を発現させることに成功した。

BaRuO3触媒は、これまでに硫黄化合物の選択酸化反応を含む液相反応における固体触媒としての利用はなく、今回の研究が初めての報告例となる。BaRuO3触媒は、様々なスルホキシド・スルホン化合物合成に適用できる優れた固体触媒として機能し、得られた生成物は、溶媒、ファインケミカル(高付加価値の化学物質)、配位子、サルファーフリー燃料など広範な製品への応用が期待される。

今回の結果は、錯体や金属塩では合成困難な特異構造(高原子価金属からなる面共有酸素八面体構造)をもつ固体触媒の開発が重要であることを示している。今後、同アプローチを他の複合酸化物触媒にも応用することで、さらなる活性向上や他の反応への展開が可能となり、温和な条件下での高効率触媒反応開発に大きく貢献することが期待できるとしている。