オレゴン健康科学大学(OHSU)などの研究チームは、がんの転移を止める薬剤化合物を発見したと発表した。マウスを使った実験で効果が確認されたとしている。研究論文は「Nature Communications」に掲載された

  • オレゴン健康科学大学のRaymond Bergan教授

    オレゴン健康科学大学のRaymond Bergan教授(左から2番目)が率いる研究チーム (出所:OHSU)

OHSUの他、ノースウェスタン大学、厦門大学、シカゴ大学、ワシントン大学などから研究者が参加している。

一般的に、多くのがんは早期に発見できて他の組織への転移が起こっていなければ治療可能だが、発見が遅くなり他の組織に転移していると死亡リスクが高まる。このため、がん治療の研究においては、がん細胞を殺す方法の開発に加えて、がん細胞の転移を防ぐ方法を見つけることが重要な課題であると研究チームは指摘している。

今回報告されたのはイソフラボンの一種であるゲニステイン(4′,5,7-トリヒドロキシイソフラボン)を出発材料として化学合成された「KBU2046」と呼ばれる化合物で、ゲニステインのヒドロキシ基をハロゲン元素で置換したものであるという。

研究チームは、乳がん、前立腺がん、結腸がん、肺がんについて、KBU2046によってがん細胞の運動性が弱まるとしており、がん細胞を移植したマウスへの経口投与実験で、他の組織への転移の抑制効果、骨破壊抑制効果、延命効果などが確認できたとしている。

先行研究からは、出発材料のゲニステインにも、がん細胞の運動性を弱める効果が報告されていたが、ゲニステインにはさまざまな生理活性があり、乳がんの進行を促進するエストロゲンに関係した作用(エストロゲン受容体との結合作用)などももっている。KBU2046は、ゲニステインの化学構造を改変して、エストロゲン受容体との結合能力などを取り除いた化合物であると論文では説明されている。

KBU2046には、熱ショックたんぱく質HSP90βのリン酸化を抑制する効果があると考えられている。HSP90阻害剤の一種であるといえるが、抗がん作用が注目されてきた従来のHSP90阻害剤との大きな違いは、細胞毒性など生体への毒性や、目立った副作用がない点であるという。