位置情報を利用したオンラインゲーム「Ingress」や「ポケモンGO」を開発・運営する米Nianticが、「Nianticリアルワールドプラットフォーム」という開発中のAR (拡張現実)の基盤技術を公表した。「探検 (exploration)」「エクササイズ (exercise)」「現実世界のソーシャルなつながり (real-world social interaction)」という同社が掲げる3つの価値観に沿って、AR体験の大きな前進に取り組んでいる。そのビジョンを示すいくつかの技術デモのビデオも公開した。まるで、そこにピカチュウがいるように現実空間に重ねたARオブジェクトがリアルに動き、また同じAR空間において複数の人たちが同じAR体験を共有できる。

Nianticは今年2月に、クロスプラットフォームでマルチユーザー、マルチセッションによるAR体験に取り組むEscher Realityを合併、さらに6月28日にコンピュータビジョンと機械学習を専門とするMatrix Millの合併も発表した。これらはリアルワールドプラットフォームで同社が目指す、「デジタルの世界と現実の世界の間をつなぐオペレーティングシステム」を実現するための戦略的な投資である。

リアルワールドプラットフォームでNianticは、コンピュータが見る世界を、従来の道路や車を中心に考えられていたモデルから、人を中心に考えた世界へと進化させようとしている。公園、遊歩道、歩道など、人々が自由にアクセスできる空間をモデリングするには大変な計算力が必要になる。しかも、インタラクティブな3D空間として、スマートフォンのような比較的非力なモバイル機器でも使えるようにし、人やデバイスが動いても違和感のない"ライブ"モデルを実現しなければならない。Nianticは機械学習とコンピュータビジョンを組み合わせたソリューションを、スケーラブルで信頼できるインフラの上に構築することで、それを解決しようとしている。

現実世界の理解も今後の課題になる。現実世界に机と椅子が置かれていたとして、見たままの把握だと机と椅子はどちらもモノで違いはないが、人にとって机は食卓や勉強机などであり、椅子は座るものだ。そうした意味や関連性を含めて現実世界が捉えられるようにする。たとえば、花の存在が理解されたら、蝶やミツバチが自然と集まるようにARオブジェクトをコントロールでき、湖が把握されたら、渡り鳥が羽を休める姿を重ねられる。下のビデオは「Occlusion」という技術のデモだ。ピカチュウが人の足を避けたり、植物の裏に隠れたりなど、現実世界に存在する様々なものの間で、従来のARよりもリアルに動き回る。

人のつながりの反映、同じAR空間で複数の人と同じ体験を共有するには、参加者の間でリアルワールドプラットフォームが同時に協調して機能しなければならない。人数が増え、視点が増えても遅延なく、スムースに同じAR空間でインタラクトできるように、Nianticは独自に低遅延ARネットワーク技術を開発した。下のビデオは「Neon」という現実世界の空間におけるマルチプレイヤーARのデモだ。

Nianticはリアルワールドプラットフォームをゲームから人々に浸透させていくが、現実とデジタルをつなぐ新たなAR体験は、様々な分野で同社も想像していないような体験を生み出す「大きな可能性を持つ」としている。