東京工業大学(東工大)は、同大の研究グループが、ストライプ状に形成したpn接合ダイオードの電流-電圧特性を測定することにより、パワーデバイス用シリコンウエハーの少数キャリア寿命を抽出する新しい評価方法を確立したことを発表した。

この成果は、東工大工学院 電気電子系の角嶋邦之准教授と科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の筒井一生教授らによるもので、米国ハワイで開催された「2018 Symposia on VLSI Technology and Circuits(大規模集積回路シンポジウム)」で、現地時間6月20日に発表された。

  • 提案するテストパターンの断面図(出所:東工大Webサイト)

    提案するテストパターンの断面図(出所:東工大Webサイト)

高耐圧で低損失なシリコン絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Si-IGBT)を実現するには、基板内の少数キャリア寿命を正確に制御する必要がある。しかし、その製造プロセスによってはシリコンウエハー内に欠陥が発生し、少数キャリア寿命が短くなる課題がある。そのため、少数キャリア寿命の劣化が少ない適切な製造プロセスを用いるための評価方法が求められてきた。

従来の製造プロセス評価では、新たにシリコンウエハーに製造プロセスを施し、光照射による電気伝導度変化を用いて少数キャリア寿命の評価を行ってきた。しかし、長い少数キャリア寿命を有するウエハーでは、表面と裏面の再結合が支配的となり正しく評価することは困難であった。また、パワーデバイスとは別のウエハーを用いるため、実際のパワーデバイスと特性が異なる懸念もあった。

研究グループは、Si-IGBTの最適製造プロセスの選択を可能とする少数キャリア寿命の電気的評価手法を提案した。Si-IGBTで要求される少数キャリア寿命は長く、耐圧に必要なウエハーの厚さでは、ショックレーのダイオード方程式を用いて導出することは困難である。そこで、ストライプ状にpn接合ダイオードを形成し、その電流-電圧特性を測定することで、少数キャリア寿命を抽出するテストパターンを構築した。この構造では、少数キャリアはウエハー裏面に到達しにくくなるが、pn接合ダイオードの測定からストライプの間隔依存性を解析することで、少数キャリア寿命を得られる。

デバイスシミュレーターによる数値計算では、電流-電圧特性に明瞭なストライプの間隔依存性が見られた。特性に変化がなくなる十分広い間隔をWp,maxパラメータと定義したところ、設定した少数キャリア寿命との関係式が得られた。これらの知見により、次世代のSi-IGBTに用いるゲート絶縁膜形成プロセスの評価を行った。比較した製造プロセスは、1050℃で13分間と1100℃で5分間の2工程である。また、用いるウエハーの少数キャリア寿命を知るため、ゲート絶縁膜形成プロセスのない試料を参照にした。

この手法でpn接合ダイオードの測定と得られたWp,maxパラメータによる解析を行った結果、ダイオード試作のみのウエハーでは少数キャリア寿命が60μ秒だったのに対し、1050℃で13分間の酸化工程では33μ秒、1100℃で5分間の酸化工程は18μ秒と劣化することが分かった。以上の結果から、1050℃で13分間の酸化工程がより適している試作プロセスであることが明らかとなった。

また、同手法ではSi-IGBTと同じウエハーに作りこむことができるため、実デバイスに近い少数キャリア寿命の評価が可能であることに加え、ワイドバンドギャップ半導体で研究されている超高電圧のデバイス評価にも展開可能である。

このたび開発された手法は、シリコンだけでなく、炭化シリコン(SiC)やダイヤモンドに代表されるパワーデバイス用のワイドバンドギャップ半導体にも同様に用いることができるため、今後は多様な応用が期待されるとしている。