友達のグループでどこかに行くと、皆スマートフォンを持っており、写真をそれで撮影する。一通りのイベントが終わると、写真をその場で共有する場面が多い。

幸いなことにiPhone同士であればAirDropを用いて、手元の写真を相手に手軽に送信し、受け取った相手はダウンロードなどの作業をせず、直接自分の写真ライブラリに保存できる。意外とAirDropの方法を知らない人も多いが、一度体験すると定着する、といった場面に出くわす。

また、iCloud共有アルバムを作ってしまう、という写真共有方法もある。共有アルバムを作って友人を招待してしまえば、参加した人が自分でアルバムにアップロードできるようになる。誕生日会など、多くの人が参加したイベントでは便利な方法と言える。

そんなグループでの写真共有をより円滑にする方法がiOS 12に盛りこまれた。英語ではSharing Suggestion、日本語では「共有候補」と訳される新機能だ。この機能は写真に写っている人の顔を解析し、すでに顔が端末内でApple IDと紐付いている場合は、ワンタッチでその人に写真を送れる仕組みだ。

  • 写真の顔認識などから、共有すべき相手のおすすめを表示してくれる

共有手段はメッセージを用い、一度写真をクラウドにアップロードし、相手に届ける。受け取った相手は、その共有された人もしくはグループに手軽に自分の写真を共有し返すことができる。こうすることで、2回ほどのタップで写真を共有でき、自分が持っていない、グループの他の人が撮影した写真を集められるのだ。

  • 写真がグループで共有されると、自分の写真も共有し返し、相手のフォトライブラリを補完し合うことができるようになる

写真アプリは今回、機械学習による機能強化を大幅に果たしており、詳細は別稿で触れる。ただ今回のグループでの写真共有機能は、これまで起点がiMessageだったグループという単位を、写真アプリから作り出せるようになる点で新しい。

  • プライバシーが保たれ、また共有にはエンド・トゥ・エンド暗号化が施され、またクラウドではなく端末内での機械学習を用いておすすめの処理を行うという

iMessageで共有されることから、写真共有をきっかけにメッセージをやりとりするグループがiOS標準のメッセージアプリで展開されれば、前述のLINEやMessengerからグループ基盤を奪うことにつながっていく可能性が生まれる。

ただし、これらのサービスはAppleのエコシステムに閉じている。

写真アプリでの共有も、iMessageのグループチャット、グループFaceTimeも、iPhoneやiPad、Macを使っていることが前提となっており、日本や米国などの先進国では40〜60%を占めるものの、iPhoneのグローバルのマーケットシェアは15%に留まる。

Apple MusicはAndroidアプリがあり、iTunesを通じてWindowsでも利用できるが、 セキュリティやプライバシーのメリットを最大化するため、AndroidやWindows向けにiMessageやFaceTimeアプリを、安易にリリースしないだろう。

特にコミュニケーションのためのデバイスやサービスには、多くのユーザーが使っているプラットホームを、より多くの人々が利用するという「ネットワークの外部性」という法則が働く。

家族という単位ではAppleはこのネットワークの外部性を働かせつつあり、全体で見れば少数派のiPhoneが、家族内で勢力を拡げる、という効果を発揮できそうだ。ではグループでも同様に、友人内でのiPhoneの更なる普及の材料となるかどうか。

米国や日本など比較的iPhoneが善戦している地域では、iPhoneから離れない材料として有効打となりそうだ。しかし新興国では、そもそものiPhoneの価格というハードルを越えるまでの機能とは言えないだろう。もっとも新興国においては、そのハードルから、家族単位でもネットワークの外部性における効果を発揮できないままでいるのだが。

松村太郎(まつむらたろう)


1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura