WWDC 2018のキーノートは泣けた! 言っておくけど、ハードウェア製品が一つも発表されなくて泣いたわけではない。最後の演出で泣けた。しかも、しっかり伏線が張られていたから、なおさらだ。

キーノートは「The Developer Migration」という、WWDCに集まるデベロッパを面白おかしく描いた奇妙なビデオから始まった。デビッド・アッテンボロー風の重厚なナレーション、自虐気味のジョークで終始する。特に笑えたのが、WWDC会場に到着し、参加者に配られるWWDCのGジャンを着たデベロッパ達が集まってにぎやかに話し始めたところ。スーツ姿の男性がにこやかに歩み寄って手を差し出す。ところが、デベロッパ達は引き気味で誰も握手しない。WWDC会場ではあっという間に群れができているのに、ソウルが通わない人は簡単にはトライブに加われない。

「デベロッパ=陰キャ」みたいな扱いで、ひっどい描き方だなぁと笑ったが、一方でお金の話に興味を示さないデベロッパを好ましくも思った。

  • キーノートのオープニングで顧客中心について語るTim Cook氏

オープニングに登場したCEOのTim Cook氏は、Appleが人々の暮らしや社会を変えてこられたのは「全てにおいて顧客中心であったからです (Customer at the center of everything)」と述べた。そして会場に集まったデベロッパに「共に、より良いそして新しい体験を顧客に提供するために努力していくことが、人々のより良い暮らしの実現に結びつきます」と呼びかけた。

Appleにとって顧客はエンドユーザーである。だから「ユーザー中心」と言っても良かったはずだが、あえて「顧客中心」としたのは、ユーザーが顧客であるのを強調したかったからではないだろうか。GoogleやFacebookの顧客は広告主であり、Microsoftで最も影響力のある顧客は企業である。それらの「顧客中心」と、Appleの言う「顧客中心」は異なる。人々のための体験、人々のためのソリューションを提供することが、顧客のための活動になり、Apple自身やデベロッパの成功につながる。

オープニングの最後にCook氏が「今日はすべてソフトウェアについて語ります」と述べて、この秋にリリースする予定のiOS、watchOS、tvOS、macOSの次期メジャーアップレードの発表に移った。それらについては後述するとして、先にキーノートの最後に流された「Source Code」というビデオを紹介しよう。その方が今回のWWDCでAppleが伝えたかったことがよく分かる。

「Source Code」は、アプリ開発者の成功までを振り返るビデオなのだが、よくある開発者本人へのインタビューではない。開発者の家族へのインタビューで構成されている。クリスマスなのに他の子どものようにスキーとかではなく、コンピュータの専門書を欲しがる子ども。1日中プログラミングと格闘し、いつも答えを探し続ける子ども。食事も減らして小さなベッドルームで開発に没頭し始めた若いケースワーカー等々。周りの家族にはデベロッパが何をやっているか全く理解できないし、心配になることも多い。しかも、失敗しては見直し、そして再挑戦の繰り返しだ。

このビデオのテーマは「デベロッパが起こす変化は世界を動かせる、では何がデベロッパを突き動かしているのか?」だ。

その答えは後半に出てくる。家族が患うアルツハイマー病や糖尿病であったり、フードロス、移民問題など、自分の周りにある問題を解決しようとして既存のソリューションが見つからず、自分で作り出し始めた。スマートフォンの可能性に賭けた野心的なデベロッパもいるが、それも社会を変えようという意志である。そして経済的な成功ではなく、彼らが起こした変化のインパクトに家族が驚き、誇りに思う。このビデオで語られるデベロッパはひたむきで、ストーリーを聞いているだけだと経済的な成功とは縁が無さそうにも思えるが、登場するのは、Robinhoodの開発者、Yelp創設者、Timelessの開発者、One Dropの創業者、The Collectiveの開発者、WWDCスカラーシップ獲得者などの家族だ。デベロッパをデベロッパたらしめるものについて考えさせる、感動的なビデオだ。

WWDC 2018のキーノートは、Appleが人々のため (ユーザーのため)の製品やサービスを提供する企業であることを、改めて宣言した場になった。それを踏まえて、4つのプラットフォームの発表を振り返ろう。