北海道大学(北大)は、同大の研究グループが、人間の食物として利用できない植物のセルロース部位から得られる炭水化物の誘導体を原料として、ペットボトルを構成するテレフタル酸の代わりとなる「フランジカルボン酸」を合成する新たな手法を発見したことを発表した。
人間の食料と競合しない植物由来の資源から、環境に負荷をかけず化学品を合成できれば、石油に代表される化石資源が枯渇した後も、現行の社会システムを持続させられることが期待される。この成果は、同大触媒科学研究所の中島清隆准教授、福岡淳教授らの研究グループによるもので、5月14日、ドイツの化学誌「Angewandte Chemie International Edition」電子版に掲載された。
植物資源から誘導されるヒドロキシメチルフルフラールを希薄な水溶液内(2wt%以下)で酸化すると、フランジカルボン酸を高い収率で合成できるが、それを大規模生産するには、基質濃度を大幅に向上させた生産性の高いプロセスの構築が必要となる。
これまでの報告を利用して高濃度溶液(10〜20wt%)内で反応を実施したところ、フランジカルボン酸の収率は30%程度とあまり高くなく、同時に不要な固体の副生成物が大量に析出することがわかった。反応効率の低下は高濃度水溶液内で原料自体が副反応を引き起こすことが原因であり、この原因は単純な反応条件の最適化では解消できなかった。
そこで研究グループは、基質であるヒドロキシメチルフルフラールの副反応を抑制しつつ目的物質へ変換する方法を着想した。具体的には、分子内にふたつのアルコール部位を持つジオールにより基質のホルミル基を保護し、その後に金ナノ粒子を固定した固体触媒によって酸化すると、高濃度溶液内でも選択的にフランジカルボン酸を合成できることを発見した。
同手法により、20wt%という高濃度溶液から90%を超える高い効率でフランジカルボン酸を合成できた。基質の保護に利用したジオールはその80%が反応後に回収できるため、繰り返し反応に利用できる。基質濃度の大幅な向上は、プロセスで使用する溶剤の使用量低減を意味している。溶媒留去に要する熱エネルギーは一般的な化学プロセスの約50%を占める場合が多いため、この知見を利用することでバイオポリマー合成の革新的な省エネルギー化が期待されている。
植物資源から有用化学品へと誘導する過程では、ヒドロキシメチルフルフラールと同様にホルミル部位の反応性を制御できれば、新たな展開を描ける反応系が多くあるという。アセタールによる保護と誘導化反応後のリサイクル技術がさらに発展すれば、ポリマー分野への応用だけでなく、より多様な基幹化学品の合成に役立つプロセス開発に寄与することが期待される。