大日本印刷(以下、DNP)は、アステック、浅田レディースクリニックと共同で、不妊治療時の受精卵に最適な培養環境と、受精卵の発育を撮影・記録し、画像解析ソフトによる受精の自動検出などの機能を持った「次世代型タイムラプスインキュベーターシステム」を開発した。同システムは、アステックが7月1日に販売を開始し、価格は1100万円(受精卵培養ディッシュは別売り)となっている。
「次世代型タイムラプスインキュベーターシステム」は、従来よりも小型で、受精卵の発育に効果的な培養環境を有し、撮影データを活用したディープラーニングによって観察作業を効率化するシステム。不妊治療のひとつである体外受精でできた受精卵は、「インキュベーター」内で数日間培養した後、状態の良いものが選ばれ、女性の体内に移植される。培養中は、順調に発育しているかを確認するために、定期的に受精卵をインキュベーターから取り出して顕微鏡で観察する必要があり、胚培養士(体外受精の操作を行う医療技術者)の負担が大きいだけでなく、受精卵が外気にさらされることが発育に悪影響を及ぼす可能性があったという。
同システムは、既存のタイムラプスインキュベーターに対する浅田レディースクリニックの要望に基づき開発されたもので、アステックが開発したタイムラプスインキュベーター本体と、DNPが開発した専用ディッシュと受精卵の前核(卵子の核と精子の核とが最初の合体を起こすまでの間)を自動検出するソフトで構成されている。本体は、幅382×奥行き591×高さ210mmと、従来の機器に対して大幅に小型化されており、設置場所に余裕のないクリニックでも導入しやすく、2台を重ねて設置することも可能となっている。
また、一般的な培養方法である「液滴培養法」では、受精卵の発育を促すためには、一滴の培養液内で複数の受精卵を培養する「グループ培養」が望ましいとされているが、従来のディッシュは個別管理ができなかった。同システムで使用する専用ディッシュは、受精卵に最適な培養環境を提供するために設計されており、複数の微細なウェル(培養するくぼみ)により受精卵の個別管理が容易でありながら、「グループ培養」を両立することができるという。
さらに、患者の複数の受精卵がそれぞれ正常に受精しているかを判断するため、胚培養士が前核の確認を行うが、前核の確認には技量と多くの時間を要するという課題があった。同システムのソフトでは、ディープラーニング技術を用いて撮影された画像を解析し、受精卵の前核を自動検出することで観察作業を効率化し、培養士の負荷を軽減しているということだ。