もっと、もっと。これは「もっと、もっと人に寄り添う企業にならなくてはいけない」、「もっと、もっと顧客のカスタマイズに柔軟に対応できる企業になる」、「もっと、もっと匠のモノづくりをしなくてはならない」、「もっと、もっと疾風(はやて)に、スピード感を持って、製品やサービスを届けていこう」といった具合だ。

「いままでやってきたことを、これまで以上に、もっと、もっと強化できる。それをやっていくことが、新たな富士通クライアントコンピューティングに課せられたテーマである」と齋藤社長は語る。あらゆることにおいて、これまで以上に「もっと、もっと」やっていこうということだ。

「もっと」を支えるレノボとの提携

この「もっと、もっと」という言葉を下支えするのが、レノボとの戦略的提携である。

年間360万台だった生産規模が、レノボグループとして約5,500万台という桁違いの規模のなかで部品を調達できる。CPUやOSといった基幹部品の調達コストの削減メリットは大きい。そして話は、調達コストのメリットだけではない。

PC事業は、富士通グループのなかでは、ノンコア事業であったが、レノボグループにとっては、一丁目一番地といえる事業。しかも、レノボグループのヤン・ヤンチンCEO自らが、日本生まれのThinkPadを中核とするIBMのPC事業の買収、国民機といわれたPC-9800シリーズの流れを汲むNECのPC事業のジョイントベンチャーなどの経験を持ち、日本市場の重要性を認識している。これまでとは異なり、戦略的投資についても、優先的に振り向けられる可能性が高い。 齋藤社長がキーワードに掲げる「もっと、もっと」を実現する後ろ盾が、レノボであることは間違いない。

「2016年10月に、レノボと提携交渉を行っていることが、富士通側から正式に発表された際、これまで通りの仕事ができるのか、富士通ブランドのPC事業はどうなってしまうのかといった点で、不安を持った社員もいたはずだ。だが、2017年11月の正式発表、今回の事業開始という流れを経て、社員が持っていた不安は払拭されてきた。むしろ、これまで以上に自由なことができるのではないかという気持ちが芽生え、社員が元気になってきていることを感じる」と齋藤社長。

そして、「いま一番大切にしなくてはならないのは、社員だと思っている。この戦略的提携が成功するか、失敗するかの分岐点は、社員1人ひとりのやる気にかかっている。社員が不安に思うことなく、集中して仕事に取り組むことができる環境を実現することが大切。それが、社長である私の仕事である」とする。

社員が元気を維持できれば、優れた製品やサービスをユーザーに届けることができる。その好循環を、新たな体制で生みだそうとしている。

世界最軽量が成功のバロメーターに

いまの富士通のPCを象徴しているのが、13.3型ノートPCとしては世界最軽量を実現している「FMV LIFEBOOK UH」シリーズである。

  • LIFEBOOK UH/B3シリーズ

齋藤社長は、「世界最軽量のポジションは、これからも絶対に譲らない」と前置きしながら、「もし富士通が、その立場をあっさりと譲ってしまうようなことが起こったら、レノボとの戦略的提携がうまくいっていないことだと受け取ってもらっても構わない。だが、ユーザーが世界最軽量のPCが欲しいと言い続け、このポジションを富士通が譲らなかったら、それは、レノボとの戦略的提携がうまく行っている証である」と断言する。

正直、この言葉には驚いた。

同社が公表しない売上高や利益の成長、あるいは見方によって変化するシェアや顧客満足度などを用いるのではなく、世界最軽量ノートPCを投入し続けるということを、レノボとの戦略的提携の成果を示すバロメーターに置いたからだ。誰が見てもわかる指標だといえる。

その指標を示したことに、レノボとの戦略的提携によるこれからの成果に、齋藤社長自らが自信を持っていることを、むしろ、ヒシヒシと感じた。(つづく)