富士通のPC事業を担う「富士通クライアントコンピューティング (FCCL)」が、この2月で設立1周年を迎えた。これを記念して同社はこのほど、島根富士通の工場にメディア関係者を集めて、「FCCLの」体験会を開催した。ここではFCCL 代表取締役社長 齋藤邦彰氏のプレゼンテーションを中心に、富士通パソコン事業の「今とこれから」を見ていく。
体験会に先立ち、あいさつに立った富士通 執行役員専務の河部本章氏は、今後のFCCLの方向性について次のように語った。「今後はデジタルサービスのほうに舵を切っていく。デジタルトランスフォーメーションだ。強固なテクノロジーを基盤としたサービスカンパニーとして差別化を図る。富士通グループは、エンタープライズやサーバーストレージ事業で深い技術を有しているが、ユビキタス事業の技術力はそれを超えていると自負している」。
ハードだけを作るのではなく、かといってソフトを中心としたソリューション提案をするだけではなく、確かな技術力を背景に一体的にサービスを提供していくとする。具体的には何をするのか。FCCL 齋藤社長のプレゼンでさらに詳しく見ることができる。
軽く薄く頑丈、それだけでは不十分
齋藤社長は、ベースとなる技術力について「お客様のニーズに応じて1台1台カスタマイズしたモデルを製造できる生産ラインを島根工場は導入している。さらに、メイドインジャパンという地の利を活かし、お客様が望むリードタイムで納品できる。そして、FMシリーズ35年の歴史で培った富士通ならではの『匠の技』が強みだ」と説明した。
匠の技の一例として、今年1月に発表したノートPC「LIFE BOOK UH75」および「U937」を挙げる。13.3型画面ながら約777gの軽さと15.5mmの薄さを実現したモバイルノートPCだ。「ただ薄くて軽ければ良いというものではない。実用性を高めるにはタフさが必要。外を持ち歩く時、落とすこともあるし、鞄の中で圧力を加えられることもある。UHシリーズはそれに耐えられる頑丈設計を盛り込んだ」。
しかし、ハードの技術力だけでは今後の競争を勝ち残れない。「富士通独自のセキュリティソリューションを組み合わせることでワークスタイルそのものの変革を実現できる」と齋藤社長は語る。具体的には、手のひら静脈、秘密分散ソフト、リモートデータ消去、離席検知によるオート画面オフなどだ。これらのセキュリティ技術を複数組み合わせることで、外出先で万が一、パソコンの盗難や紛失した時にも重要情報を安全に守ることができるのだ。
「お客様の困りごとを解決し、ビジネスの役に立てるソリューションを最大限に広げるラインアップの開発に今、取り組んでいるところだ。ビジネスだけでなく、コンシューマー向けのソリューション開発も進めている。書斎やリビング、ファミリー用途でベストフィットする商品を取り揃えていく」。
UH75とU937は、約200kgfの全面加圧試験と約76cmからの底面落下試験をクリアしている頑丈さ |
手のひら認証などのセキュリティツールを組み合わせ、データ漏洩の心配のない安全なモバイルソリューションを提案する |
スーパーバリューチェーンが生み出す価値
これらの取り組みが実を結ぶには、日本国内ですべてを完結する「スーパーバリューチェーン」が必要不可欠だと齋藤社長は力説する。「ここ島根富士通もスーパーバリューチェーンの一つ。このチェーンが匠の技を支え、そこからグローバルへと拡大展開できる」。
昨年10月、富士通はレノボとの戦略的提携を検討中であると表明した。今回の体験会の直前にも一部で「(島根などの) 国内生産拠点は維持する方向」との報道が流れたが、これに対し齋藤社長は「決まったことはない。協議中としか言えない」と明言を避けた。
ただ、生産拠点は単なる組み立ての場ではなく、今後の富士通パソコン事業を担っていく重要な開発拠点であり、効率を求めて海外生産に切り替えられるものではないことを、今回の体験会を通じて示した。そこには、FCCLがこれまで培ってきた技術力と生産力に自信がある、との強い意志表示が見て取れる。
FCCLに限らず、PC業界はグローバルでも国内でもいまひとつ振るわない。しかし、「パソコン、タブレットをコンピューティングの一部と捉え、より多くの場所、より多くのシーン、より多くの時間でユーザーの役に立つことを目指すことでFCCLは成長できる。われわれが活躍できるチャンスはまだまだ存在する」と齋藤社長が意気込むように、常に身近な存在となり、われわれの生活や仕事を安全かつ便利にしてくれるツールとなったとき、新たな市場が生まれるかもしれない。
後日掲載のレポート記事では、FCCLが考えるコンピューティングの未来について、デモを通じてより具体的に見ていく。