東京医科歯科大学(TMDU)は、同大の研究グループが、慢性疼痛の原因が脳のグリア細胞の異常によることをつきとめたことを発表した。

この研究成果は、医科歯科大 難治疾患研究所分子神経科学分野の田中光一教授と卓扬赵大学院生によるもので、国際科学誌 Glia(グリア)に5月3日、オンライン版で発表された。

  • グリア細胞の異常により慢性疼痛の発症が制御されている

    グリア細胞の異常により慢性疼痛の発症が制御されている(出所:TMDUニュースリリース)

ケガが治癒しても長期間にわたり痛みが続く症状を慢性疼痛といい、患者は人口の20~25%と多いが、現在の治療に満足する患者は25%に過ぎない。副作用の少ない効果的な治療薬の開発が期待されているが、慢性疼痛を引き起こす脳内メカニズムには不明な点が多く残されている。

研究グループは、痛みの感覚を伝える神経伝達物質「グルタミン酸」に着目し、同物質の細胞外濃度を制御するグリア細胞に存在するグルタミン酸輸送体「GLT1」の慢性疼痛発症における役割を検討した。 この研究では、GLT1を異なる脳部位から欠損させた2種類のマウス(脊髄特異的GLT1欠損マウスと中脳特異的GLT1欠損マウス)により、慢性疼痛に及ぼす影響を検討した。通常のマウスでは、末梢神経を傷つけると痛覚過敏の症状を示す(神経因性疼痛モデル)。脊髄特異的 GLT1欠損マウスでは、神経 因性疼痛の症状が悪化した。しかし、中脳特異的GLT1欠損マウスでは、神経因性疼痛の症状が起こらなかった。

  • セフトリアキソンは脊髄のGLT1の発現を増加させ、鎮痛効果を示す(出所:TMDUニュースリリース

    セフトリアキソンは脊髄のGLT1の発現を増加させ、鎮痛効果を示す(出所:TMDUニュースリリース)

以前の研究で、末梢神経を傷つけると、GLT1の発現は脊髄で減少し、中脳で増加することが報告されている。今回の研究結果は、このようなGLT1の発現変化が慢性疼痛の発症に関与していることを示唆している。 また、通常マウスの神経因性疼痛に対し鎮痛効果のあるセフトリアキソンは、脊髄特異的GLT1欠損マウス の神経因性疼痛に対し効果がなかった。これにより、セフトリアキソンが脊髄のGLT1を標的として鎮痛効果を発揮していることがわかる。

今回の研究結果により、既存薬では治療できない慢性疼痛に対し、脊髄のグリア細胞に存在するグルタミン酸輸送体GLT1の発現を増加させることによる、新しい治療薬の開発が期待される。