東北大学は、研究グループが、遺伝子がエピゲノムによって通常は「休止中」となっている白色脂肪組織に着目し、持続的な寒さによって生じる白色脂肪細胞のベージュ脂肪細胞への変化の過程にて生じるヒストンの持つ脱メチル化酵素のリン酸化が、エピゲノムの変化において重要な役割を持っていることを明らかにしたと発表した。

この成果は、東京大学先端科学技術研究センター/東北大学 大学院医学系研究科の酒井寿郎教授、群馬大学生体調節研究所の稲垣毅教授、学術振興会特別研究員の阿部陽平氏、東京大学大学院薬学系研究科の藤原庸佑大学院生、および東京大学大学院医学系研究科の高橋宙大大学院生らの研究グループによるもので、4月19日付けの国際科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

  • エピゲノム変化と細胞の質の変化がもたらす寒い環境への慢性的な適応のしくみ(出所:東北大Webサイト)

    エピゲノム変化と細胞の質の変化がもたらす寒い環境への慢性的な適応のしくみ(出所:東北大Webサイト)

恒温動物は寒冷環境に適応する仕組みを持ち、脂肪細胞が重要な役割を持っている。急激に環境の温度が低下すると交感神経系が活性化し、褐色脂肪細胞で脂肪が燃焼され熱が産生される。一般によく知られている白色脂肪組織は、エネルギーを脂肪として貯めることが主たる役割であるため、熱産生能を有しておらず、熱産生に関与する遺伝子も発現しない。しかし、寒冷環境が長期に持続すると、白色脂肪組織でも脂肪燃焼と熱産生に関わる遺伝子が誘導され、寒冷環境に個体が耐えられるよう適応する。

本来、細胞には「エピゲノム」というゲノムの後天的な調節機構が備わっており、エピゲノムのしくみにより細胞の種類ごとに働く遺伝子(活動中)と働かない遺伝子(休止中)が明確に決められている。一方で、脂肪を貯める機能を担う白色脂肪組織では、脂肪燃焼や熱産生に関わる遺伝子は「休止中」となっているため、働くことができない。

研究グループは、そんな白色脂肪組織に着目し、慢性の寒冷刺激による脂肪組織のベージュ化過程におけるエピゲノム解析を行った。その結果、寒冷刺激を受けるとアドレナリン作用によってヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aがリン酸化され、寒冷刺激が持続すると必要な機能を獲得したJMJD1Aがエピゲノム変化を介して 「休止中」だった脂肪燃焼と、熱産生に関わる遺伝子群を「活動中」にし、遺伝子を発現させてベージュ化を誘導し、寒冷環境に慢性的に適応するしくみがあることがわかった。

ベージュ脂肪細胞は、熱産生のために糖や脂肪を活発に消費することから、近年、栄養過多に伴う2型糖尿病などの生活習慣病の治療標的として注目されてる。JMJD1A のリン酸化を標的とした脂肪組織のベージュ化機構にもとづく肥満や生活習慣病の治療・予防法、インスリンのはたらきが悪くなる2型糖尿病の治療法に応用できることが期待される。