• STEAM教育の拡大のためにツービット・サーカスが主催したイベント「STEAM CARNIVAL」

    STEAM教育の拡大のためにツービット・サーカスが主催したイベント「STEAM CARNIVAL」

ツービット・サーカスの作品は、テクノロジーの活用するというまじめ一辺倒にも見える題目に反して、チャレンジングな要素を含んでいる。特に顕著なのが、STEAM教育を広げるために彼らが米国内でキャラバンを展開したイベント「STEAM CARNIVAL」の中で展示された作品のひとつ「DUNK TANK FLAMBE」だ。

  • 炎を使って伝統的なお祭りの出し物を新たなアトラクションにした「DUNK TANK FLAMBE」

    炎を使って伝統的なお祭りの出し物を新たなアトラクションにした「DUNK TANK FLAMBE」

「子供たちに科学への興味を持ってもらいたいし、バスケ選手やDJより、"こっち"のがかっこいいぞと伝えたかったんです」(ブッシュネル氏)

この作品は、アメリカのお祭りごとでは定番のゲーム「DUNK TUNK」が元ネタ。これはゲーム参加者が的にボールを命中させると、大きな水槽の上に座っている人が落っこちてずぶ濡れになる…というもの。たとえるなら、日本だとTV番組でお笑い芸人が受けるような「罰ゲーム」を、視聴者参加型でやっているようなものと言えるかもしれない。

「DUNK TANK FLAMBE」ではその名の通り水を火に置き換え、的にボールが命中すると、人が立っているブース内に火柱が上がる。

「STEAM CARNIVAL」で「DUNK TANK FLAMBE」を披露した際の動画。子どもがボールを的に当てると、ブース内の"victim"は炎に包まれる。

「エンジニアリングを用いたアトラクションですから、もちろん怪我はしませんよ」とブッシュネル氏。ブース内の人は防火スーツを着用しているため、本当に火あぶりになってしまうことはないそうだ。

イベントを各地でキャラバンするにあたり、ブース内にスタッフではなく、防火スーツを着た子どもが入るのはどうかとロサンゼルス当局に問い合わせたところ即刻拒否されたエピソードを挙げ、「相手に『何を言っているんだ』と驚かれるようなことを想像して、(拒否されるから言わないのではなく)実際に言ってみるのはおもしろい」といたずらっぽく笑った。子どもを炎のブースに入れた事実はないが、こうした「MAD」な発想を封じずに思いを巡らすことも、作品づくりに必要な発想力なのかもしれない。

VR、ARより面白い「今、ここ」

ツービット・サーカスの経歴紹介の後、ブッシュネル氏はいま現在のトレンドとして、3つのトピックを列挙した。

「人は物を使って体験したい」というひとつめのトピックでは、ミレニアル世代の消費行動を例として、モノ主体ではなくコトを重んじる体験型消費が主流になっているとして、「体験はもはや通貨のようになっている」とコメントした。

そして、モノの流通に関して、「小売りは変わった」と断言。Amazonに代表されるECサイトの興隆で、小売店舗はどんどん減っており、運動であればジム、食事であればレストラン、そして好奇心や知識欲を満たすエンタメやメディアなど、人の身体にかかわる事柄を買うことが重要となっていると語った。

最後に挙げたのは、体験の双方向性。かつては、お祭りごとの参加者は完全な受け手で、主催する側の思惑通りに体験することをある種強いられていたが、現代においては受け手であった参加者たちも能動的に楽しめる双方向性が求められているのだとコメント。今なお注目を集める先進テクノロジーであるVRよりも"イマーシブ"なのは現実であり、「物理的にここにいること、それこそが体験としては最高のピーク」だと熱弁した。そして、会場に集まるエンジニアたちに向かい、彼らがプロジェクトを手がけるにあたって、ユーザー、そしてユーザーたちが形成するコミュニティをいかにして巻き込むかが大切だと呼びかけた。

  • ロサンゼルスに、彼らのアトラクションを集めた「ゲームセンター」が開設される

    ロサンゼルスに、彼らのアトラクションを集めた「ゲームセンター」が開設される

2018年春、活動拠点であるロサンゼルスに「ゲームセンター」を開設するべく準備が進められている。「SOLIDWORKS WORLD 2018」では、そんな彼らの作り出す「遊び」の一部をいち早く体験できる機会も設けられた。

  • 手元のボールを転がして、大勢でひとつの画面内のゲームを遊ぶ

    手元のボールを転がして、大勢でひとつの画面内のゲームを遊ぶ

  • 中身はタイピングゲームだが、巨大なキーボードを使うため思った以上に体力を使う

    中身はタイピングゲームだが、巨大なキーボードを使うため思った以上に体力を使う

センサが仕込まれ、揺らすと灯りが消えるペンライトを持って3on3で戦う騎馬戦のようなゲーム、巨大なキーボードで行うタイピングゲーム、壁面でツイスターを行うようなものなど、タッチパネルが普及した昨今のデバイスと比べると、かなりレトロな作りのものが多い。スイッチを押したり、手先だけでなく体を実際に動かしたりと、「体験」としての手触りを重要視しているように思われた。

  • 体にセンサをつけ、画面内の光るパネルに体当たりするゲーム
  • 体にセンサをつけ、画面内の光るパネルに体当たりするゲーム
  • 体にセンサをつけ、画面内の光るパネルに体当たりするゲーム。赤い部分は当たるとダメージを与えられてしまうため、いろんなポーズを取ってパネルに体を避けたり当てたりする

これまで10年にわたる活動を通して、「クリエイティビティをどうやって増強させるか」考え続けてきたというブッシュネル氏。「クリエイティビティは人生そのもの。それを高めるのは、筋肉を増強させるようなもので、練習が必要。でも、頑張れば頑張るほどうまくなる」と語り、仏教の教えのひとつ「初心」を忘れず、さまざまな職種の人たちと交流することなど、クリエイティビティを絶やさないためのTipsを披露していた。

ツービット・サーカスの生み出す「遊び」は基本的にシンプルで、テクノロジーという題目はあれど、どこか懐かしい手触りのアトラクションばかりだった。今のところ、国内で体験可能な場を紹介できないのは残念ではあるが、2017年1月に電通ベンチャーズによるツービット・サーカスへの出資が発表されており、日本を中心とするアジアにおけるビジネスの可能性も挙げられているため、今後さらなる展開も考えられる。

だがまずは、直近でロサンゼルスに開設される「ゲームセンター」がどんなものになるか、期待して待ちたいところだ。彼らのWebサイトからゲームセンターに関する事前案内の配信登録が可能となっていて、オープンの詳細やディスカウントクーポンの配信が予定されているため、気になる人はチェックしてみてほしい。