技術革新に必要な「遊び心」と「失敗を恐れない心」

さらに講演では、技術革新(イノベーション)に必要となる「創造性」についての話が語られた。

「2002年に行われた『ノーベル賞100周年記念フォーラム』にて、ノーベル博物館長は、『個人として創造性に必要なものは、勇気、挑戦、不屈の意思、偶然、努力、遊び心、新たな視点、組み合わせ、瞬間的ひらめき』だと言っていました。これは、私自身の経験からも当てはまります。間違って、いつも使っているアセトンの代わりにグリセリンと、金属超微粉末と混ぜたものを、『遊び心』で使ってみたところ、新たな発見があったように。そして、これらの力はすべて、誰もが大なり小なりもっているものです。私がノーベル化学賞を受賞したことが、多くの研究者に『田中にできるなら、私も…』という考えをもたらし、失敗を恐れずに挑戦をするきっかけになって欲しいと思っています」(田中氏)

  • 個人として創造性に必要な要素。「間違ってませたものを使ってみた」という田中氏の行動は、「遊び心・新たな視点・組み合わせ・偶然」に重なっていたともいえる

個人として創造性に必要なものについて語った田中氏だが、このほかに、環境として創造性に必要なものもあるとした。「集中(人口密度)や往来のしやすさ、資源、自由、競争、多彩な才能、そしてコミュニケーションやネットワーク、会合の場などです。そうしたことを考え、2019年1月には、これらの要素のうちのいくつかを満たした、新たな研究棟『島津新研究棟 ヘルスケアR&Dセンター』をオープンさせます」(田中氏)

  • 島津製作所の新開発棟「ヘルスケア R&D センター」のイメージ図。2019年1月に竣工予定となっている

さらに田中氏は「これまでの研究によって、MSは進化し、見えないものが見えるようになってきました。しかし、もっと役立つものにしていく必要があります。まだまだ研究は道半ば。今後、さらにMSを究(きわ)めていきたいと思います」とし、講演会を締めた。

ノーベル化学賞を受賞し、田中耕一記念質量分析研究所が設置されて15年。同氏の描く「血液1滴から早期診断・創薬の手がかりを得る」という未来への道のりは、まだまだ続くようだ。