アプリを用いた検査研修で研修生間や講師との間での議論が活発化

こうして完成したAR技術を活用した土木構造物の維持管理用教育アプリは、土木構造物のメンテナンスに関わる可能性のある新入社員すべてを対象として、研修で用いられていれている。今年度は、グループ会社も含めた約30人が利用している。

アプリの使い方は、模擬橋りょう・高架橋と模擬トンネルでは異なる。模擬橋りょう・高架橋にはARマーカーを設置しているが、模擬トンネルについては壁面自体をマーカーとして認識する技術を開発・活用しているためだ。

このため模擬トンネルでは、ARマーカーの貼り付けや取り替えが不要となっている。このため、設備の制約などによりARマーカーの貼付けが困難で、かつ映し出す対象が広範囲な環境における拡張現実の利用に期待できる。

模擬トンネル内には、変状取得ポイント(マーカー)が10カ所用意されており、それぞれが検査を含めた日常保守において着目しなければならないポイントとなっている。この検査しなければいけないポイントにiPadをかざして写真を撮ると、変状が表示される。

そこで、研修者はどの種類の変状に該当するかを選択して、その変状の発生原因がどれに当たるのかを選び、さらにそれがどういった原因で発生しているのか、手当が必要なのか、監視が必要なのか、それともそのままでいいのかを判定する。

また、手当が必要だと回答した際は、どのような対策が必要かも選択するようになっている。こうしてグループで検査を行った後に教室に戻ると、「変状名」「原因」「原因詳細内容」についての採点結果について判定結果について振り返りながら議論するのである。

今泉氏は、「現在では講師側のアプリに対する理解度も上がっていて、『こんなこともできるんじゃないか』と活発に意見を寄せられるようになっています。研修現場でも、講師と研修生が自由闊達に意見交換しやすい環境ができています」と話す。

自分達の手でつくったアプリだからこそ積極的な改善につながる

土木構造物の維持管理用教育アプリの導入により、既に確認されている効果は大きく以下の3点だ。

  • 実際の検査の方法・手順を模擬体験できる
  • 実際の変状を仮想的に確認することができ、理解度が高まる
  • 時間の制約にとらわれず安全に教育が行える

こうした効果を踏まえて、東京メトロではアプリをさらに進化させていくという。

今後の構想について、今泉氏は以下のように語った。

「やはり、コンテンツが進化のカギと考えています。再現する変状も現在のような単純なものだけではなく、ベテランの技術者であっても判定に迷うような変状なども増やしていきたいですね。新入社員向けの研修が終了した後にアンケートを行っていますが、『もっとこうして欲しい』といった意見も寄せられています。そうした意見も反映しながら、より効果の高いアプリへと改善を重ねていく構えです。そもそも、自分達の手でつくったアプリだからこそ、『こうしたい、ああしたい』といった意見にこたえていくことができるのではないでしょうか」