千葉大学は、ショウジョウバエにおける集団内の行動の個性の多様さが競争を緩和し、集団の生産性や安定性を高めることを発見したと発表した。また、多様性のある集団ほど、環境条件を変えても安定して高い生産性を保つという。

  • キイロショウジョウバエの幼虫には、遺伝子に支配された2つの個性が存在する。

    キイロショウジョウバエの幼虫には、活発に動いて餌を探索するタイプ(せかせか型)と、あまり動かずに餌を探すタイプ(おっとり型)が存在する。

  • 2つの個性を混ぜたとき、単独状態よりも集団の生産性が向上した。

    2つの個性を混ぜたときに、単独状態よりも集団の生産性が向上した。

同研究は、千葉大学大学院理学研究院の高橋佑磨特任助教、東北大学大学院生命科学研究科の田中良弥氏(博士後期課程学生・日本学術振興会特別研究員)、山元大輔教授、河田雅圭教授、高知大学総合科学系生命環境医学部門の鈴木紀之准教授らの共同研究グループによるもので、同研究成果は、英国科学誌「Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences」電子版1月17日号に掲載された。

モデル生物のキイロショウジョウバエには、遺伝子に支配された2つの個性 (おっとり型、せかせか型)が共存することが知られている。しかし、生物の集団内の多様性(ダイバーシティー)が集団に対してどのような機能を果たすかは、ほとんど調べられていなかった。

同研究グループは、東北大学と高知大学との共同研究で、個性の多様さが集団の生産性や持続性に与える影響を検証した。まず、餌をめぐる競争において、少数派(マイノリティー)のタイプが有利になることの知られている環境とそうでない環境を実験的に作り出し、2つの個性を単独あるいは混合して飼育し、生産性(生存率や集団全体の重量)を比較した。すると、少数派が有利になれる環境に限り、個性に多様性のある集団の生産性が多様性のない集団より高くなった。餌を探索する行動に個性があることで、資源をめぐる集団内の競争が緩和されたことが原因のひとつだと考えられるという。また、多様性のある集団ほど環境条件を変えても安定して高い生産性を保つこともわかり、これらは、数理モデルによっても裏付けられた。これら一連の結果は、少数派が有利になり多様性が共存しやすい環境では、集団内の個性の多様さが集団の生産性や持続性を向上させる効果が現れることを示唆している。

なお、同研究成果によって多様性の機能の理解が進むことで、生物の効果的な保全や農作物の生産効率の向上、社会での多様性の効果的活用に貢献すると期待されるということだ。