働き方改革は、何もダイバーシティ推進だけではない。コネクティッドソリューションズ社の大阪から東京への移転もその一環だ。「意識を変え、お客様視点への変革には場所の問題は大きかった」と、大橋氏は答えている。

東京オフィスでは、仕切りをなくしたオープンスペースをベースに、社長である樋口氏までもがその中で仕事をしている。また、Skypeやテレビ会議システムを活用したテレコミュニケーション、テレワークも積極的に利用している。このあたりは、日本マイクロソフト 前会長の樋口氏ならでは、といった印象も受けるが、実はソリューションの導入だけでなく「会議室を減らす」という大なたを振るっていた。

"大なた"である理由は、大阪の門真時代、常に「会議室を増やしてほしい」という要望があったから。東京オフィス移転の際もそうした要望があり、「会議室を減らしたことには当初、反発の声が多く上がっていた」(大橋氏)。しかし、オフィスの造りをオープン型に切り替えることで社員同士のコミュニケーションの仕切りがなくなり、意見交換の機会が増えた。結果として会議が減り、行われる会議も「一つ一つの時間が短くなり、中身が濃いものになっているという実感がある」(大橋氏)。

「社内でも大なり小なり課題があるという意識は抱えていた。これまでにも色々取り組んできたが、本質を変えることができていなかった。社長の樋口が率先して、自ら働き方を変えていく姿を見せるというやり方が、社員にとっては新鮮に映っていると思う」(大橋氏)

  • 移転したことで、「日本型大企業」らしからぬオープンなオフィスへと変貌を遂げた

職場が変わり、コミュニケーションも変わった。となれば、マネジメントも変える。日本企業は長年「年功序列制」での評価が定着していると言われてきたが「パナソニックでは、実は10年以上前から成果主義評価だった」(大橋氏)。ただ一方で、これまでの評価手法は上司が部下を評価する一方通行のもの。そこで人事制度の改革でも「360度評価」を取り入れ、部下からの評価軸も加えることで、誰もが納得できる「成果主義評価」へと変化させようとしている。

「コミュニケーションの変革とマネジメントの変革は同じ。日常のマネジメントが変わらないと本質は変わらない。日々の部下との接点を変えるための研修や仕組作りに力を入れていく。上司が部下を取り仕切るのではなく、互いに自らの意見を出し合える関係を構築できれば」(大橋氏)

製造業で勝てなければ日本企業に勝ち目はない

社内の働き方改革に取り組んでいる山中氏と大橋氏だが、どういったポイントを大事にして改革に取り組んでいるのだろうか。

大橋氏は「向かう方法や方法論は合っている」と答えるなど、両者の意識や考え方は一致しているようだが、そのことをどう伝えるかという、コミュニケーションの部分に関しては、両者で相談しながら決めていくことが多いのだという。

「私は7月にパナソニックに入社したばかりですし、鈍感力が強すぎる部分があるので(苦笑)、わからないことも多い」と山中氏は自己分析した上で、だからこそ長年の社内体制を熟知している大橋氏と頻繁に相談し、アドバイスを受けながら意識改革に向けた取り組みを進めているのだそうだ。

山中氏はこれまでの経験を踏まえ、「IT業界に携わっていて、日本企業はITの世界で勝ち目が薄いと感じている。だからこそ、日本が勝てるフィールドである製造業を強くしたい。製造業で勝てなければ、世界で勝てる日本企業はないというぐらいの思いで精一杯努力したい」と、日本にとっていかに製造業の復活が重要かを力説する。

技術畑ではない山中氏がパナソニックで果たす役割は、営業力の強化や組織の活性化という製造業にとっては「影のサポート役」かもしれない。しかし、「昭和のおっちゃんの会社」が「世界水準の働き方」を達成できれば、この会社が世界のリーディングカンパニーになる未来も見えてくるだろう。