仮想通貨は貨幣として一般的に使われるようになるのでしょうか?
齋藤氏:経済学では、「価値移転」「価値保存」「価値尺度」という3つの機能を有しているものを通貨と定義します。この定義からすると、仮想通貨も法定通貨と同じ性質を持っているといえるでしょう。実際、アメリカでは給与の一部をビットコインで受け取ることのできるサービスもあるそうです。ただし、その際に注意することが価値の安定性。たとえば今日、1万円分のビットコインを給料として受け取り、翌日1000円のランチを食べるとしましょう。給料を受け取ったときとランチを食べるときの価値が安定していれば使いやすいのですが、仮想通貨は価値が流動的です。今日ランチ10食分の価値だった給料が、翌日には1食分まで下がっているかもしれません。そうなると価値移転インフラとしては不安定な要素があるといえます。
一方で、今の貨幣経済も価値移転インフラとして劣化が目立っています。精巧な偽札や銀行送金に要する時間、為替交換の手数料など、旧世代化していると言わざるを得ません。それらはアップデートさせる必要があるはず。技術仕様にもよりますが、仮想通貨はほぼリアルタイムで世界中どこへでも価値移転が可能です。場所や時間を問わず、誰でも価値の保存を行えることもあり、価値移転インフラとしてのポテンシャルは高いといえるでしょう。
反社会的な用途で使われるという指摘もありますが、それは法定通貨でも変わりません。法定通貨の場合は銀行の管理がしっかりしているので防げていますが、仮想通貨でも厳格な管理を行えば防ぐことができるはずです。現状で仮想通貨交換業者が管理できるかというと、限界があるのも実情ですが。
法定通貨を代替する可能性があるということでしょうか?
齋藤氏:ありえなくはないシナリオですが、私は法定通貨がなくなることはないと考えています。仮想通貨がもたらしたインパクトの1つは、価値移転インフラの技術的な革新です。通貨の流通源が国単位という物理的な存在の中に限られていた法定通貨に対して、仮想通貨はどちらかというとレイヤーで分かれているイメージ。コミュニティごとに異なる使い方が出てくるのではないかと考えています。
たとえば、流通業界であれば即時価値移転を行えることも重要ですが、ECサイト上では購入者と販売者による互いの合意形成があった場合のみ決済を進めるような使い方が求められるかもしれません。フェイスブックのような国を超えたコミュニティーのレイヤーでつながるSNSで行われたライブ動画が評価されて、「投げ銭」を送ることもできるでしょう。動画サイトのレコメンドが同じものに偏らないような最適化エンジンを作成した個人へ、報酬として支払われることも考えられます。
つまり、法定通貨は物理的なセグメントで継続して使われ、仮想通貨はコミュニティベース、ビジネスベースという環境に適応した価値移転インフラとして普及していくのではないかと考えています。