子供たち自らの創意工夫でおもちゃで遊ぶ楽しさが広がる"体感型トイ・プラットフォーム"という独特のコンセプトや、ソニーが手がけるおもちゃ、ということで大いに注目を集めている「toio(トイオ)」。このtoioは、どういった経緯で生まれたのか、プロジェクトリーダーのソニー 新規事業創出部 toio事業室 統括課長の田中 章愛氏に話を聞いた。

  • ソニー 新規事業創出部 toio事業室 統括課長 田中 章愛氏

【特集】
ソニー変革の一丁目一番地、SAPのいま

2018年3月期の通期決算予想で、過去最高益となる6300億円が見込まれるソニー。イメージセンサーやテレビなど、既存製品の収益力向上、シェア増がモメンタムを作り出している。一方で、かつてのソニーファンが口を揃えて話す「ソニーらしさ」とは、ウォークマンやプレイステーションを生み出したソニーの社訓「自由闊達にして愉快なる理想工場」の賜物だ。世界中の大企業が新機軸のイノベーションを生み出す苦しみに陥るなか、ソニーは「SAP」でそれを乗り越えようとしている。スタートから4年目に突入するSAPの今を見た。

5年の開発期間を経て製品化、「ソニーだから実現」

田中氏はソニーに入社後、ロボット技術の基礎研究や開発を長年続けていた。その過程で考案したtoioは、自主研究の期間も含めて、およそ5年の歴史を持つ。

ソニーコンピュータサイエンス研究所に所属し、ゲームなどの研究を行っていたアンドレ・アレクシー氏などとともに、ソニーらしい新しい遊びを提供できないかとアイデアを温めていた。当初こそ、自分たちが楽しむ目的でtoioの原型となるおもちゃを開発していたが、「知り合いの子供などに遊んでもらうと好評で、『これを世に出したい』という気持ちが強くなっていった」と話す。

  • toioのコントローラーとなる「toio リング」と本体の「toio コンソール」

一方、本来の業務ではtoio事業化前から、SAPを担当する新規事業創出部に所属し、SAPの仕組み化と運営に携わっていた。そして、ちょうど携わっていた仕事が一段落した2016年にSAPのオーディションで選考を通過、2016年6月から製品化に着手したという。

5年の歳月をかけたtoioだが、「当初から既存のおもちゃと組み合わせて楽しむというコンセプトは変わっていない」(田中氏)。一方でアソビを実現するための技術も、本体の小型化など、当初解決できなかった問題を解決できたという。

例えば、toioの本体となる「toioコア キューブ」にはさまざまなセンサーが搭載されているが、その中に「絶対位置センサー」と呼ばれているものがある。toioで遊ぶときに利用する「マット」には、toioが現在いる場所を検知できる目に見えない特殊な情報が印刷されている。それを絶対位置センサーが読み取ることで、今いる場所や動いている向きなどを把握し、正確な動きを実現している。

  • マットは一見、ソニーとは程遠い「ただの紙」。だが、子どもたちが遊ぶ上で重要な役割を果たす

また、外部から加わる衝撃などを検知し、それに反応するような動きや、動いているtoioコア キューブを手で取り上げて違う場所に移動させても、本来の場所に自動で復帰し、元通り動作するという機能も搭載されている。

こういった動きは、テレビゲームでこそプログラムで簡単に実現できるが、現実の世界ではさまざまなセンシング、そしてモノづくりの技術を必要とする。超小型のモーターなど、これまでソニーが培ってきた小型化技術も製品化に大きく役立っているとのことで、田中氏は「ソニーだからこそ実現できた」と自信を示す。

こだわったのは"直感的な遊び"

toioコア キューブを操作できるリング状のコントローラ「toioリング」にも、さまざまなこだわりが詰め込まれている。まず、コントローラは片手で操作することを前提に設計されているが、これはもう一方の手でtoioコア キューブを触って遊べるようにするためだという。

リング状にしたのは、使わないときは腕に通すことで両手が空くようにするため。テーブルなどに置いて使う場合に使いやすいよう、操作ボタンをリングの上下両方に配置。形状こそ特徴的だが、そこには子供たちが遊びやすい工夫が数多く詰め込まれている。

  • 特徴的な形状の「toio リング」

そして、こういった特徴は、"直感的な遊び"を実現するためのこだわりだという。「自分が作ったものが動き出すと、子供はすごく感動して夢中になるんです」と田中氏は語ったが、特別な知識を必要とせずに自分の手で作りたいものを作り、それが動き出す。「その時に感じる感動を体験してもらいたい」という想いを田中氏はtoioに込めた。

ところでtoioは、単体で遊ぶのはもちろん、既存のおもちゃのブロックや人形などと組み合わせて遊べる点が大きな特徴となっている。しかし、現在ソニーが力を入れているネットワーク関連機能は備えていない。これは、子供たちが、複雑な設定など不要に、家ですぐに楽しめるというところを重視してのものだそうだ。

筆者などは、「Xperiaなどと連携できれば、より遊びの幅が広がるのでは」とも感じる。この点について田中氏も、ネットワーク関連機能が不要と断言はしておらず、今後の展開にも含みを持たせてはいた。ただ、小学生低学年以下の子供が遊ぶおもちゃにとって、ネットワーク関連機能は複雑すぎるのも事実。

また、開発中に体験した子供の親から「おもちゃ単体で完結するものの方がありがたい」という声もあったという。親が安心して子供に与え、子供たちだけで遊べるおもちゃと考えると、複雑なネットワーク関連機能が不要というのも当然で、そういった声を受けて、ひとつのパッケージで閉じるようなものにした。