北海道大学は、「囚人のジレンマ」と呼ばれる社会的ジレンマ実験を行った結果、相手を知ることができない状況と比較して、相手を知り関係性を構築できる状況下では、協力行動が誘導・維持されることが明らかになった一方、この条件下での懲罰行為は協力行動を阻害し、報復を誘発することが明らかになったことを発表した。

  • 3つの条件に応じた選択の傾向と推移の様子(出所:北大ニュースリリース)

「環境に適応できる優秀な個体が生き残る」というダーウィンの自然選択説に従えば、各個人が利己的に振る舞う方が種にとって有利であるとされるが、実際には高度な文明を築く上で協調性は欠かせない。

今回、北海道大学電子科学研究所のユスップ・マルコ助教らの研究グループは、「ネットワーク型相互関係」と「コストを伴う懲罰」と呼ばれる仕組みが、実際に協調性を促進するかどうか実験的に検証した。

今回の研究では、社会的ジレンマ実験のひとつである「囚人のジレンマ」を応用した実験を行った。囚人のジレンマでは、ペアを組んだ実験参加者が相手に対して「協力」または「裏切り」を選択し、両者が協力を選択した場合、一方が協力で他方が裏切りを選択した場合、両者が裏切りを選択した場合で、それぞれに異なるスコアが与えられる。この選択を一定回数繰り返したあと、両者のスコアを比較することで、どの選択が有利な結果に結びつくか分析できる。

今回の囚人のジレンマ実験では、225名の被験者が3つの条件(シャッフル、ネットワーク、懲罰付きネットワーク)のいずれかに振り分けられ、1ラウンドあたり2名の相手と囚人のジレンマ実験を50ラウンド行った。

3つの条件のうち、「シャッフル」では相手がラウンド毎に入れ替わるため、「協力」「裏切り」を選ぶ際に相手の特徴を認識し、参考とすることができない。「ネットワーク」では相手が固定されるため、相手の特徴を認識しながら選択ができる。「懲罰付きネットワーク」は3つ目の選択肢として「懲罰」を追加し、懲罰を選択した場合は自分のスコアも減るが、相手のスコアの方がより多く減るように設定されている。研究チームは、これら3つの条件において選択の傾向やスコアの推移を検証した。その結果,相手を認識できない「シャッフル」では裏切り選択が増加することがわかった。

一方、相手を認識できる「ネットワーク」では、協力行動が誘導・維持されることが明らかになった。その際、協力的な被験者同士がグループを作ることもわかった。「懲罰付きネットワーク」では、協力を選択する集団が維持されるものの、それが懲罰による効果ではないことが明らかになった。懲罰は、むしろ懲罰返しや裏切りを誘導し、協力グループの形成を阻害していた。また「懲罰付きネットワーク」では、協力的な相手を認識する能力が低下すること、最終的な報酬(スコア)が低下すること、協力選択と報酬的成功の関係が不明瞭になることがわかった。

これらの結果は、相手のことを知ることができると協力行動が誘導されやすいことを示しており、「ネットワーク型相互関係」理論を支持している。一方、懲罰は協力行動を誘導せず、むしろ阻害していたことから、「コストを伴う懲罰」理論には相反する結果となった。

研究グループは、支配的な立場にある側が報復を受けることなく懲罰を行うことができるといった 非対称な状況において、懲罰による協力誘導が起こるという仮説を立てており、今後検証していく予定だという。さらに、文化的背景が懲罰に対する反応に影響していることも予想されるため、多様な被験者を対象に同様の検証が行われることが期待されるとしている。

なお、この研究は北海道大学電子科学研究所のユスップ・マルコ助教らと、中国、アメリカ、クロアチア、イスラエル、イタリアの大学との国際共同研究として行われ、成果はPNAS誌(米国科学アカデミー紀要)に12月19日付でオンライン掲載された。