駐輪ポートをどう確保するか

では、駐輪ポートをどう確保するかだ。言い換えれば、駐輪ポートになりうる土地を誰が保有しているか、という問題でもある。

これは場所によって異なるが、自治体であるケースも多い。日本の違法駐輪対策を自治体が中心となり進め、人の集まる駅前への駐輪所の設置などを進めてきたからだ。またシェアサイクルが公共性の高い事業という観点からも、自治体と結びつくほうがビジネスとして展開しやすい。

現に国内最大の事業者となるドコモ・バイクシェアも自治体からの事業受託をメインにしてビジネスを展開しているほどだ。ざっくり言えば、人口の多い自治体といかに手を結び、連携していくかが成功につながりやすい。それがシェアサイクルビジネスの一面である。

そうなると、モバイク・ジャパンにとって、自治体と強い結びつきを持つパートナー、もしくは、今後、強い結びつきを持てる力を持つパートナーが望ましい。LINEはその条件に当てはまる相手といえるだろう。

意外かもしれないが、LINEは行政サービスの情報発信を主体として、いくつかの自治体と連携している。とりわけ東京都渋谷区とは結びつきが強く、渋谷区内の小中学生を対象としたリテラシー教育、シェアリングサービスの実施・実現に向けた取組みを進めている。

  • 2016年8月にLINEと渋谷区がパートナー協定を締結。写真は長谷部健渋谷区長(左)とLINEの出澤剛代表(右)

今後は自治体と連携を図るうえで、シェアサイクルを新たなサービスに加えて提案することも可能となり、自治体口説きの大きな材料となる。今回の提携はLINEとっても旨みのあるものだ。対して、自治体も市民の生活向上につながるサービスを提案してもらえるのだから歓迎すべきことだろう。

ビジネス環境をみても、今年になってソフトバンクとofoと共同で事業参入を表明し、DMM.com、メルカリも事業参入への検討を公表するなど、話題の企業が続々と手を上げている。そうした中でLINEとモバイクの提携は差別化を進めたという点でも意義が深い。

最大の課題は東京都心部の攻略

しかし、こうしたメリットを見出しながらも、シェアサイクルビジネスで、最も旨みのある東京都心部での事業展開については正直、謎である。

すでにドコモ・バイクシェアは都心部の多くを押さえており、数多くの事業者が名乗りをあげつつも、もはや勝敗が決したように見えるほどだ。

2017年9月末段階で、江東区、千代田区、港区、中央区、新宿区、文京区、大田区がドコモ・バイクシェアのサービスエリアとなっており、自転車4260台、駐輪ポート328カ所で展開している。さらに10月以降には渋谷区、練馬区、品川区もサービスエリアに加わっており、東京都心部はドコモ・バイクシェア一極集中の状態なのだ。

もちろん、自治体の手を借りずに都心部でのビジネス展開を図ることは可能であり、実際に都心部でサービス提供している事業者もいる。しかしながら、わずか数箇所の駐輪ポートをつくっても、ドコモ・バイクシェアと比較すると見劣りしてしまう。

発表会の席で、モバイク創業者のHu Weiwei氏は「ドコモ・バイクシェアと競争にはならない。相互補完性がある」などと述べたが、何をもってして相互補完性があるのかは不明だ。よほどの利用動機を作らない限り都心部での展開は難しいだろう。

「今後はスモールスタートを行いながら、LINEが懇意にしている地方自治体への提案を進めていく」とLINEの出澤剛社長が述べるように現状は発表待ちという段階だ。今回の提携をきっかけに、どういった一手を打ってくるのか、どういったアイデアで攻めていくのか、そこに注目したい。