Skylake+TensorFlowというシステム構成において、ディープラーニングによる花の識別を行わせると、1秒間で4.7枚の画像を識別できる。それに対して、Tesla V100+TensorRTでは、1秒間で913枚の画像を識別でき、Tesla V100を8基搭載したDGX-1Vでは、1秒間で実に7067枚もの画像の識別が可能であった。Skylakeと比べると、性能差は約1500倍にもなる。
AIが困難な問題を次々に解決
こうしたGPUの性能向上により、AIは飛躍的に進歩し、これまで解決不可能だったさまざまな問題を次々に解決しているという。例えば、レンダリングが完了していない画像を補完するオートエンコーダーや、音声に基づく顔のシミュレーション、レンダリング画像をフォトリアリスティックなスタイルに変換するセマンティックマニピュレーション、現実の顔から存在しない人物のリアルな顔を生成するプログレッシブGAN、音楽を作曲するRNNなどがその成果だ。
ディープラーニングは、画期的なソフトウェア開発のアプローチだが、一方で強力なPCインフラを必要とする。NVIDIAは、PCからスーパーコンピューターまで、シングルアーキテクチャで学習と推論ができ、あらゆるフレームワークに対応していることが魅力だという。
また、日本におけるAIの現状だが、富士通のサーバーや産総研のABCIスーパーコンピューターにVoltaが採用されたほか、FANUCもNVIDIA AIを利用。PFNのChainerは、トレーニング速度で世界記録を達成した。さらにSC17では日本から55件のAI論文が発表され、60ものAIスタートアップが生まれているなど、AIについても日本では先進的な取り組みが行われている。
AIは、現代の最も強力な技術であり、日本が自動車、製造、重工業、医療のような重要な領域で世界的なリーダーシップをとるために、AIは不可欠だと強調する。
自動運転車はソフトウェアによって定義される
AIは、自動運転車や産業・福祉ロボットのような未来を実現する技術だ。AIが活用される最も重要な分野といえるのが、自動運転車である。自動運転車は新しいタクシーサービスを可能とするほか、長距離運転の負担軽減などを実現するという。
さらに、自動運転技術は車のスタイルや使われ方をも変える。将来の車は、単に目的地に向かう手段ではなく、リラクゼーションとエンターテインメントの場になるとしている。
自動運転車はソフトウェアによって定義され、NVIDIAでは「NVIDIA DRIVE」と呼ばれる自動運転アーキテクチャを開発している。完全自動運転車の開発は、コンピューティング史上、大きなチャレンジの1つであり、高速センサー、スーパーコンピューター、複雑なAIとソフトウェア、複雑で多様な運転状況をナビゲートする最高レベルの安全性と信頼性が求められる。
自動車メーカーは、L2 ADAS、L3/4自動走行、L5ロボットタクシーまで共通のアーキテクチャの作成に挑戦する。レベルが上がるごとにより多様な道路状況への対応、より高解像度のセンサ、より高い冗長性および柔軟性が必要になり、開発は指数関数的に複雑になる。
NVIDIA DRIVEでは、自動トランクオープンや自転車警告、わき見運転警告機能などを実現しており、今後もさまざまな機能を実装する。
そのためには、生産性の高い開発ツールが揃った、強力でスケーラブルなアーキテクチャが求められるとして、NVIDIAは世界初をうたう自律動作マシン用プロセッサ「XAVIER」を開発した。XAVIERは、高い電力効率に加えて、豊富なI/O、30TOPS(trillion operations per second)の演算性能を備える。
日本の産業の未来にはロボティクスが不可欠
新技術は将来の建設現場も変える。AIを搭載した建機が障害物を検出し、自律的にナビゲートしてタスクを処理するほか、環境をスキャンして遠隔地に送り、オペレーターはVRで建機を遠隔操作することができるようになるという。
日本の建設業界では、コマツがAI建設のために、NVIDIA Jetson TX2を建機に搭載することを発表。4,000の現場で導入を開始する。日本の産業の未来には、ロボティクスが不可欠だとして、今後も取り組みを進める。
IREX 2017(国際ロボット展)には200以上の産業用ロボット企業、150以上のサービスロボット企業が出展した。将来的には全てのロボットがAIによって動くとの見通しだ。
仮想ロボットシミュレーション環境Issac
ジェンスン氏が公演の最後に見せたのが、開発中の仮想ロボットシミュレーション環境「Issac」である。Issacは、ロボットの機械的モデル、センサーモデル、アクチュエーターモデル、環境の正確なモデル、物理シミュレーションを実現しており、仮想世界の中で仮想ロボットのAI(ニューラルネットワーク)を学習させることができる。
ゴルフクラブの使い方を一切教えずに、ロボットにゴルフのパットを学ばせるデモが公開された。当初は、まともにクラブをボールにあてることさえできなかったロボットが、学習を重ねることで上達していき、最後はどこからでも一発でホールに入れることができるようになっている。
Issacで学習して進化したニューラルネットワークのパラメーターは、そのまま実際のロボットに転送することができる。Issacを使えば、実際のロボットと学習環境を用意せずに、ロボットのAIを鍛えることができるので、AIロボット開発に必要な時間やコストを大幅に削減できるとした。