東京大学は、侵略的外来種であるザリガニが水中の水草を餌として摂食することなく刈り取ることで生じる環境改変の効果が、ザリガニ自身の増加を誘導する「自己促進効果」があることをメソコズム実験で実証したと発表した。
同研究は、水産研究・教育機構の西嶋翔太研究員(元東京大学大学院農学生命科学研究科特任研究員)、西川知里氏(元東京大学大学院農学生命科修士課程学生)、東京大学大学院農学生命科学研究科の宮下直教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、12月12日に「BMC Ecology」に掲載された。
外来生物は侵入先の生態系を大きく改変することが知られている。同研究では、日本の淡水生態系において在来種の著しい減少や生態系の改変を引き起こしている侵略的外来種アメリカザリガニを対象に、その水草の刈り取り行動に伴う環境改変効果に着目した。従来、ザリガニは水草を餌として摂食することなく切断する行動が知られていたが、その意義については不明であった。
同研究グループは、まず、大型の実験水槽を用いてザリガニ密度の異なる実験区を設け、それぞれにトンボのヤゴとユスリカの幼虫を定期的に導入した。さらに、それぞれのザリガニ密度区に対して、水草を十分量入れた場合と何も入れない場合の実験区も設けた。その結果、ヤゴやユスリカ幼虫はザリガニ密度が高いほど減少したが、水草存在下では減少が大きく食い止められた。また、ザリガニの1匹当たりの成長量は、水草がない条件下ではザリガニの密度とともに減少したが、水草存在下では逆にザリガニ密度が高いほど成長量が大きくなることがわかった。この反直感的な結果は、ザリガニの密度が高い場合には水草がより多く刈り取られるため、餌を発見しやすくなったことで生じたと考えられる。
次に、物理的構造物としての水草の存在が、実際にザリガニの摂食率の低下と成長量の低下をもたらすかを確かめるために、ザリガニによる切断を受けない人工水草を用いた実験を行った。人工水草の量を増やすと、ヤゴやユスリカの生存率が高まる一方、ザリガニの成長量は低下することが示された。これは、水草の物理的な隠れ家としての機能の向上が、ザリガニの餌捕獲効率の低下を通して、ザリガニの成長を抑制している証拠だという。
同研究では、ザリガニの水草切断がもたらすに自己促進効果を、比較的短期間のメソコズム実験により明らかにした。一度水草が減少してザリガニの自己促進効果が働くと、その影響は長期的に維持される可能性が高く、いったん定着した外来生物を駆除のみで根絶することは容易ではない。生息地の適切な管理と組み合わせることで、外来種を低密度状態で管理できれば、生態系へのインパクトの軽減につながる可能性がある。また、ザリガニに切断されにくい水草を特定し、その保全や導入を通して、ザリガニを低密度で維持できる可能性も示唆されたという。今後は、野外条件下での検証実験が望まれるということだ。