新しいヒート・パイプの試験を実施、軌道高度もより高く

これまでと同様、今回のOTV-5でも、どのようなミッションを行うのか、米空軍は詳細を明らかにしていない。

ただ、断片的ながら、「自励振動型ヒート・パイプ」(Oscillating Heat Pipe)の試験を行うことは明らかになっている。

これは人工衛星の熱制御に使える新しい技術で、熱を出す部分と冷却する部分との間に、細い配管を何往復もさせるように配置し、その中に作動液を入れる。すると、熱を出す部分で蒸発、冷却する部分で凝縮し、その圧力差で自励振動が発生する。それにより熱を輸送し、冷却することができるという仕組みをしている。

従来型の毛細管現象を使うウィック型のヒート・パイプに比べ、軽量かつ安価なシステムにできると考えられており、さらに配管の配置が比較的自由にできるため、衛星の形状に柔軟に対応できるほか、加熱部と冷却部が離れているような場合でも搭載が簡単といった利点がある。

X-37Bには3つの自励振動型ヒート・パイプが搭載されており、実際に宇宙で稼働させることで、その性能や劣化の度合いなどを評価する。また将来的には、実際の衛星に使えるシステムとして完成させることを目指している。

ただOTV-4と同様に、X-37Bのペイロード・ベイの大きさを考えれば、このヒート・パイプしか積んでいないということはなく、他にもなんらかの機器などを積んでいる可能性が高い。

また米空軍は、今回のX-37Bは、従来より高度の高い軌道を飛行することも明らかにしている。ただし具体的な数字や、高度を上げる理由は明らかになっていない。従来のミッションの飛行高度も公式には明らかにされていないが、衛星観測を趣味とする人たちによって、高度300~400kmほどの軌道を飛行していたことがわかっている。今回の飛行高度も今後、近いうちに特定されることになろう。ちなみにボーイングによると、X-37Bが飛行できる軌道高度は200kmから925kmまで対応できるという。

また、ロケットの部品落下に伴って設定された侵入禁止エリアからは、ロケットは軌道傾斜角40度ほどの軌道に向かって飛行したことがわかっている。ただ、第2段機体は制御落下によって地球に落下するものの、その落下予定海域からは、より高い軌道傾斜角60~70度ほどの軌道から落ちてくることが示唆されている。そのため、第2段の飛行中に角度を変える「ドッグレッグ・ターン」を行った可能性がある。

おそらくX-37Bもその軌道に投入されたものと考えられるが、これまでは軌道傾斜角38~43.5度ほどの軌道に入っていたため、今回のミッションでは高度だけでなく軌道傾斜角も高くなっている可能性がある。この点も今後の観測によって明らかになろう。

また、米空軍は今回の打ち上げで、相乗りの小型、あるいは超小型衛星が搭載されていることも明らかにしている。ただ、その衛星の詳細や、またファルコン9から放出されるのか、それともX-37Bからペイロード・ベイから放出されるのかなどは明らかにしていない。

打ち上げを待つファルコン9 (C) SpaceX

X-37Bを搭載したファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

ファルコン9、初となるX-37Bの打ち上げ

今回のOTV-5は、X-37Bにとって初めてとなるファルコン9での打ち上げとなった。これまで4回のミッションは、すべてユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の「アトラスV」が使われていた。

X-37Bをファルコン9で打ち上げるという話は、今年6月に明らかになった。ただ、実際の打ち上げ契約がいつ結ばれたかなど、経緯は明らかになっていない。またULAのトーリー・ブルーノ社長は、X-37B OTV-5の打ち上げ契約をスペースXが取ったことについて、「ULAにはそもそも入札の機会すら与えられなかった」と明らかにしている。

ただ、次のOTV-6の打ち上げではアトラスVが選ばれており、米空軍としては両方の企業に公平に仕事を与えるとともに、高い打ち上げ実績をもつアトラスVと、圧倒的な低価格さをもつファルコン9とを併用することで、リスクとコストを抑える狙いがあると考えられる。

ファルコン9の打ち上げは8月25日にも行われたばかりで、2週間で2機の打ち上げに成功したことになる。また、今年だけでも13回目の打ち上げとなり、そのすべてが成功している。

ファルコン9は2010年に運用が始まり、今回で41回目の打ち上げとなり、成功率は97.6%になった。なお、2016年に打ち上げ前の試験中に爆発した機体を含めると95.2%になる。また第1段機体の回収は、通算16回目の成功となった。

X-37Bを搭載したファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

X-37Bの打ち上げ後、地球に帰還したファルコン9の第1段機体 (C) SpaceX

次は3回目の再使用打ち上げ、ただしハリケーンが接近中

次のファルコン9の打ち上げは10月2日の予定で、ケネディ宇宙センターから、ルクセンブルクにある衛星通信会社SESの通信衛星「SES-11」を打ち上げる。またこの打ち上げは、以前一度打ち上げた第1段機体を使った再使用飛行となる予定で、ファルコン9の再使用打ち上げはこれが通算3度目となる。

ただ現在、フロリダ州には超大型ハリケーン「イルマ」が接近しており、その動きや影響によっては、10月2日の打ち上げが延期となる可能性もある。イルマはすでにカリブ海諸島などで大きな被害をもたらしており、すでにトランプ大統領はフロリダ州をはじめ、米領プエルトリコ、米領ヴァージン諸島に非常事態を宣言している。

イルマは現地時間10日にもフロリダ州に上陸する可能性があり、今回の打ち上げ後、ケネディ宇宙センターなどは閉鎖に向けた作業が行われている。着陸した第1段も、ハリケーン上陸までの間に回収が行われる予定となっている。

また、ケネディ宇宙センターに隣接するケープ・カナベラル空軍ステーションでは、昨年のファルコン9の爆発事故で損傷した第40発射台の修復作業も進められている。現時点で修復は10月に完了する予定で、10月中旬ごろの韓国の通信衛星「コリアサット5A」(ムグンファ5A)の打ち上げから使用が再開される予定となっている。ただ、イルマの影響によっては、修復作業や打ち上げが遅れる可能性もある。

またこれに先立つ10月4日には、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地から、10機のイリジウム衛星を積んだ打ち上げも予定されている。

X-37Bを搭載したファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

X-37Bの打ち上げ後、地球に帰還したファルコン9の第1段機体 (C) SpaceX

参考

OTV-5 Mission | SpaceX
Orbital Test Vehicle Mission 5
OTV-5 MISSION | SpaceX
Air Force preparing to launch fifth Orbital Test Vehicle mission > Air Force Space Command > Article Display
X-37B Orbital Test Vehicle > U.S. Air Force > Fact Sheet Display

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info