オーディオ用途で検証

Tinker BoardはRaspberry Piと同じARMアーキテクチャを採用しているが、SoCが異なるためOSレベルでの互換性はない。2017年8月現在、Android OSのほか「TinkerOS」などいくつかのLinuxディストリビューションが公開されているが、Tinker Board向けに移植されたものでなければ動作しないことに留意しておきたい。

しかし、今後については楽観視してよさそうだ。TinkerOSはDebian(最新版のStretch)ベースのLinuxディストリビューションで、ASUS自体がサポートするうえ更新頻度も高い。

Debian Stretchのサポートは2017年4月とRaspbian(DebianのRaspberry Pi向け移植版)より対応が早いほど。ほかにもDebianベースのディストリビューションは移植が進められており、そのなかにはオーディオファンに支持される「Volumio」が含まれる。

このVolumioはオーディオ再生に特化したパッケージングが特長で、MPD(Music Player Daemon、オーディオ再生を統括するサービス)やffmpeg/libavcodecなどのデコーダを収録しており、ヘッドレス運用を前提に設計されている。

Tinker Boardの再生機構は192kHz/24bit対応(RK3288のデータシートには32bitとの表記あり)と公式にうたわれているので、USB DACなど外部機器の力を借りず「ハイレゾ再生」できるというわけだ。

TinkerOSはあとでじっくり検証することにして、まずは使い慣れたVolumioを試すことに。284MBのイメージファイルをダウンロードしてmicroSDに書き込み、それを起動ディスクとしてブートしたところ、数十秒後には滞りなく起動が完了した。

起動ディスクの作成には、Mac用ソフト「dd Utility」を使用した

VolumioではAvahi(Bonjour互換のIPアドレス自動付与機構)がデフォルトで有効なため、iPhone/MacのWEBブラウザから「volumio.local」と入力すれば管理画面にアクセスできる。ここまで、操作性においてRaspberry Pi版となんら変わりはない。

WEBブラウザでVolumioのWEB UIにアクセスしたところ。Raspberry Pi版と外観に違いはない

念のためSSHでリモートログインしてprocファイルシステムを確認したところ、確かにヘッドホン端子から192kHz/24bitの音源を再生できている。出力先をHDMIに切り替えても192kHz/24bitを再生できており、HDMI出力は自動的に48kHz/16bitへ強制的にダウンサンプリングされていたRaspberry Pi(カーネルレベルでそのような仕様だった)に比べると、ボード単独でのオーディオ再生機構は練り上げられている印象だ。

ヘッドホンジャックへの出力をprocファイルシステムで確認したところ、確かに192kHz/24bitのハイレゾ音源を再生できていた

音質はまずまずといったところ。ヘッドホンジャックに至るアナログ信号はローパスフィルタを経る程度の簡素なものだが、Tinker BoardではPWM由来のノイズが乗らないよう配慮されており(ここに無頓着なRaspberry Piはかなりのノイズを発する)、比較的クリアな再生を楽しめる。

現在公開されているTinker Board版Volumioは、オーディオ出力にHDMIとヘッドホンのみ選択できる(S/PDIFは基板上に部品が実装されていない)

マスタークロックはRK3288が生成した信号を利用しているようで、音場感など微妙なニュアンスは専用設計のHi-Fiオーディオ機器に譲るものの、オンボードの再生機構としては及第点といえるだろう。

ただし、ドライバ類はRaspberry Pi版に比べ整備が遅れているようで、GPIO接続の拡張カード(HATs)は利用できない。USB Audioドライバは、/lib/modules/4.4.16/kernel/soundディレクトリを見るかぎり存在しているが、Volumioとしての環境設定が未完のためUSB DACは利用できない。Raspberry Pi用ソースコードにわずかな変更をくわえる程度で動作可能になるはずなので、あとは今後の"熟成"を待つばかりだ。

後編では、CPU/GPUの温度変化など実運用にあたっての注意点や、TinkerOSのようにGUIを使うOSのパフォーマンスについて検証してみたい。