北極海の夏の海氷面積はこの40年で半減している。この海氷の激減については、いくつかの要因が指摘されているが、今回、北海道大学(北大)らの研究グループは、衛星観測による海氷データなどの解析から、海氷-海洋アルベドフィードバックが要因であることを明らかにした。

同成果は、国立極地研究所の研究員である柏瀬陽彦氏と北海道大学低温科学研究所の大島慶一郎 教授(北極域研究センター兼任)が中心となり実施された。詳細は、英国の科学誌である「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。

北極海では、2000年代に入り、夏の海氷面積が1970年~1980年代に比べ半分近くに減少している。2012年9月には、日本のマイクロ波放射計による人工衛星観測から、海水面積が過去最少になったことが記録されている。このような海氷激減については、気温上昇の他にも、大気循環や雲量の変化、太平洋および大西洋から流入する熱量の増加、北極海から流出する海氷量の増加など、いくつかの原因が複合的に重なりあったものとして考えられてきた。また最近は、これらの原因の中で、海氷-海洋アルベドフィードバック効果の重要性が指摘されつつあった。

北極海の9月の海氷分布(海氷密接度で示し、スケールは右端) 。左は1980年代の平均値、右は2010年以降の平均値。緑で囲んだ扇形領域は同研究の解析領域。National Snow and Ice Data Center(NSIDC)によるデータを使用 (出所:北海道大学Webサイト)

海氷-海洋アルベドフィードバック効果とは、日射に対する反射率(アルベド)が黒い開水面(周囲が氷で覆われている中で、局所的に水面が見えている部分のこと)では、白い海氷表面より小さいため、海氷域で水開き(開水面)がいったん広がると、開水面から吸収された日射による熱により海氷が誘拐され、さらに開水面を広げ海氷融解を加速するというもの。しかし、開水面から入った日射(ないしはフィードバック)の熱が海氷の融解量やその経年変動を説明できるのか、また、もしフィードバックが生じているとするとその引き金は何なのか、といったことはよく分かっていなかった。

海氷-海岸アルベドフィードバック効果を示す模式図 (出所:北海道大学Webサイト)

同研究では、海氷減少が主に生じている海域に対し、衛星観測海水データや大気客観解析データなどを用いて、海氷域内へ入る日射などの熱量・海氷融解量・海氷発散量(海氷が拡がる方向に動く割合)などを計算・分析した。その結果、日射が開水面に吸収される量と海氷融解量は、いずれの年においてもよく対応していることが分かった。つまり、主に日射により開水面を介して入る熱によって海氷融解量の経年変動が決まることが示され、初期の開水面の増加が引き金となって、海氷-海洋アルベドフィードバックが効果的に続き、融解が増幅された結果であることが示された。

開水面に入る熱量と海氷融解量の経年変動。解析領域における、5~8月積算の海氷域での開水面に入る熱量(主に日射による:赤線)と、年積算の海氷融解量(黒線)の1979年から2014年までの経年変動。海氷融解量は熱量に換算してある (出所:北海道大学Webサイト)

2000年以降はそれ以前より、海氷発散量が2倍程度大きくなっている。海氷発散そのものによる海氷密接度の減少はわずかだが、この減少が引き金となってフィードバックが働き、海氷融解最盛期に向け開水面への熱量インプットが大きく増し、融解が加速したと考えられる。2000年以降は、多年氷などの厚い海氷が減少したことで、海氷が動きやすくなった結果として発散が生じやすくなり、フィードバックの感度が増したと考えられる。

2000年以前(左)と以降(右)の海氷後退における海氷と熱量の収支。上図は融解初期で、2000年以降は2000年以前より海氷の発散量が2倍程度大きくなる。下図は融解最盛期で、この差が引き金となって海氷-海洋フィードバックが働き、2000年以降に開水面への熱量インプットが増加し、海氷融解が加速している (出所:北海道大学Webサイト)

なお、研究グループは今後、より精微な海氷-海洋モデルや気候モデルと組み合わせて解析することで、フィードバック効果の理解を深め、季節海氷予報の実用化やフィードバック効果の地球気候への影響を評価していきたいとしている。