物質・材料研究機構(NIMS)は8月8日、各面にひとつずつポケットを持つ、ナノカーボンでできたマイクロサイズのキューブ状物質を作製し、ポケットに蓋をしたり、再度あけたりすることに成功したと発表した。

同成果は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点超分子グループ バイリパルタ研究員、南皓輔研究員、ヒルジョナサン主席研究員、有賀克彦グループリーダー、スレスタロック主任研究員らの研究グループによるもので、7月25日付の国際科学誌「ACS Nano」オンライン版に掲載された。

これまで、原子・分子レベルでの構造体調整・制御、その構造を操る技術の開発が幅広く研究されており、実際に多くの機能性材料やナノシステムが報告されてきた。しかしながら、ナノレベルより大きいマイクロサイズレベルでの構造制御および構造操作は、制御する原子や分子の数が飛躍的に多くなるため困難であると考えられてきた。

同研究グループは今回、楕円球状分子であるC70フラーレンを用いて、各面にひとつずつ1μmのポケット構造をもつマイクロサイズのキューブを作製することに成功した。これは、さまざまなフラーレン結晶の構造制御を達成してきた「液液界面析出法(Liquid–Liquid Interfacial Precipitation;LLIP)法」を改良したDynamic LLIP法により達成されたもので、さらに、このキューブのポケットに蓋をしたり、その蓋を開けたり、自在に制御することが可能となった。

また、大きさがほぼ同じ樹脂由来の粒子と炭素素材の粒子の2種を、作製したキューブと混合したところ、粒子の化学的性質を認識し、樹脂由来の粒子はひとつだけ取り込まれた一方、炭素素材の粒子は複数取り込まれることが明らかになった。

同研究グループは、今回の成果について、ポケット構造に標的の薬剤や生体機能性材料を内包させて輸送し、蓋を開閉して徐放を制御するなどの医療応用や、汚染物質などを選択的に取り込んで環境を浄化するなどの応用が期待されると説明している。

C70フラーレンのマイクロキューブの電子顕微鏡像 (a)調製後 (b) 蓋を閉じた (c) 蓋を開けたキューブ (出所:NIMS Webサイト)