冷しゃぶの失敗から得た仮説

山口氏によると「鍋で熱を通した肉を手元の氷水で冷やす。食べるのが大変。そもそも冷たいものを食べるなら、温野菜には行かないのでは……」という結論に達したようだ。

暑い夏だから涼しさを!、という発想は受け入れられなかった。ならば……と、4年前にマーケティング部が打ち出したのが"夏鍋"だ。夏だから鍋料理にしようという逆転の発想をしたわけだ。

開始1年目は「蒙古炎鍋」「薬膳香鍋」などを6月初頭から9月上旬まで展開。このうち最後の薬膳鍋は今ではレギュラーメニュー入りを果たしたという。お客の反応も良く、山口氏は「1年、2年、3年と続けるに従って確実に増えている。来店客は15%増えた。酸っぱいもの、辛いものなら来店してもらえる。夏鍋というキーワードがお客さんの心に響いた」と話す。

売上にも変化が出た。1年を通じて宴会シーズンの12月がピークなのは不動だが、売上不振の8月は逆に売れるようになり、状況は変わったという。「夏だからこそ、熱いものが食べたい」とよく言われるが、温野菜のケースに限れば、それは本当だったようである。

こうした手応えを得て、温野菜の夏季の取り組みが今年は大きく変わった。従来3カ月だった夏鍋の期間をスタート時期を早めて4カ月に拡大。従来、夏鍋は期間限定メニューを同時提供していたが、今年は第1弾から第3弾と分けて提供するようにした。温野菜のリピーターは2カ月に1回の来店頻度とされ、リピーターに夏鍋全部を食べてもらえるよう時期を分けた。

そして、テレビCMで"暑い夏だから鍋を食べて欲しい"というメッセージを出し、手応えを得た夏鍋をトレンド化したいというわけだ(一部地域のみ放映)。

温野菜は全国385店舗(うち直営62店舗)を持ち、しゃぶしゃぶ料理屋としては最大手。いわば"夏鍋"というキーワードをもって、「鍋料理は夏でも受け入れられるのか」という壮大なテーマに挑戦することにもなる。近頃は"夏鍋"を用いて展開する他社も出てきており、飲食業界では動き出したところもあるという。こうした話を聞くと、"夏鍋"がトレンド化してもおかしくはないとも思えてくる。夏に食べる鍋の"夏鍋"はどれほど多くの人の心をつかめるだろうか。