アップルは2017年6月5日から開催された世界開発者会議「WWDC 2017」で、新型iPad Proを披露した。これまで9.7インチ、12.9インチという2つのサイズを用意していた同シリーズのうち、9.7インチを10.5インチへと拡大し、ラインアップを刷新した。
現在iPadは、長期的な販売台数減のトレンドの中にある。2016年3月に9.7インチiPad Proを登場させた際、6億台ともいわれる5年以上経過したPCの買替え需要を狙う、とマーケティング的なターゲットを珍しく明らかにし、有望な市場であることをアピールしたが、およそ3年間、販売台数を上向かせることができていない。
今回のiPad Proの新モデルは、アップルが抜け出せずにいるタブレット市場の低迷を打破することができるのだろうか。
市場の変質
iPadが低迷する理由は内的要因、外的要因に分けて、いくつか考えられる。
まず内的要因については、iPadを買い換えるタイミングを作れていない点が問題だ。もしiPadを家庭内で利用する場合、その多くの用途はメール、SNS、ウェブ閲覧、動画視聴になってくる。最新OSにアップデートしたとしても、多くのパソコンと違い、iPadはパフォーマンスを落とさず、こうした作業を快適にこなしてくれる。
ユーザーにとっては、1台のマシンを長く使える点で、非常に良い製品ではあるが、アップルにとっては、デバイスの買替え需要がPCよりも長期化しかねない点でネガティブな効果となっている。別の視点で言えば、アップルやアプリ開発者が、最新のiPadを使うべき、と人々が考える新たな用途を見いだせていない点も挙げられる。
外的要因は、市場の変質だ。iPadは今でも、教育機関で人気のあるコンピュータだ。ワープロから動画編集まで、アプリは無料で利用でき、それぞれのパフォーマンスも高い。そして前述のように、動画編集であっても4年前のiPadで軽快にこなしてしまう耐用年数の長さがある。
しかし教育市場を見ると、iPadの半額以下で購入でき、キーボードが利用できるGoogle Chromebookに人気が集中し始めており、米国のK-12教育市場では、58%ものシェアを誇る。MacとiPadを合わせても20%に満たず、マイクロソフトにも追い越されてしまった。
一般向けでも、マイクロソフトが率先して、モバイルノートとタブレットの融合を行い、2-in-1やデタッチャブルといった、トレンドを作り出した。タブレットとしてのiPadは、そうしたトレンドにマッチすることができず、低迷を続けている、と見ることができる。 2017年3月に9.7インチiPad(第5世代)をリリースし、価格を329ドルへと値下げしたが、特に教育市場や大量導入を行う企業に対して、より魅力的な選択肢として提案する意図があった。
そして今回のiPad Proは、現在のモバイルPCのトレンドに対して、タブレットとして戦いを挑むための製品、と位置づけることができる。