東北大学は、同大学大学院生命科学研究科の門間健太氏(博士後期課程学生)と東谷篤志教授らの研究グループが、ヒト熱中症のモデル系として線虫を用いた高温ストレスによる筋細胞の崩壊メカニズムを明らかにしたことを発表した。この研究成果は6月1日、米国遺伝学会誌 「Genetics」に掲載された。

線虫の筋細胞内のカルシウム濃度を可視化し、高温(30℃ 3時間)によりその濃度が上昇することを認めた(出所:ニュースリリース※PDF)

高温や多湿な環境下で長時間活動し、深部体温が上昇した際に生じる「熱中症」は、初期症状としてめまいや倦怠感、筋攣縮などがみられる。処置が不十分で悪化すると、骨格筋などの横紋筋融解症が生じ、筋細胞内成分が血中に流出して尿細管が閉塞し、腎不全などによって死に至る。

これまで、全身麻酔の併発症のひとつで、熱中症と類似した症状を示す悪性高熱症 では、リアノジン受容体からのカルシウムの過剰放出に起因することが知られており、唯一の特効薬であるダントロレンによる対処療法が確立していたが、いずれも筋原線維の崩壊に至る詳細の多くは不明であった。

今回の研究では、ヒト熱中症のモデル系として、モデル生物の一つ線虫(C エレガンス)を用いた。高温ストレスにより線虫の筋細胞が崩壊する過程においては、高温によりカルシウム濃度が過剰に上昇することで、ミトコンドリアの断片化が生じ、最終的にミトコンドリアの機能が失われて筋原線維が崩壊した。

また、筋細胞の収縮と弛緩を調節するCa2+遊離チャネル(リアノジン受容体)を欠 損した線虫の突然変異体、ならびにその活性を阻害する薬剤の投与で高温によるカルシウムの濃度上昇を抑制することで、ミトコンドリアの断片化ならびに筋原線維の崩壊を抑えられることも明らかになった。

さらに、長寿命になる線虫のdaf-2変異体では、高温ストレスによるカルシウム濃度 の上昇が抑えられており、逆に、短寿命になる線虫 daf-16 変異体ではカルシウムの上昇が亢進し、ミトコンドリアの断片化がより進むこともわかった。

線虫の筋細胞のミトコンドリア(左端)は繊維状につながっている。高温(30℃ 3時間)により急速に断片化が生じ、その後、通常温度(20℃)に戻してもミトコンドリアの崩壊は進み、最終的に筋原線維のミオシン、アクチンが分解することが示された。(出所:ニュースリリース※PDF)

筋細胞では、カルシウムの濃度を変化させることによって、その運動性につなげているが、この筋細胞特異的な恒常性機構が高温ストレスによって影響を受けやすく、その特異性が他の臓器や組織よりも高温ストレスによる崩壊リスク(横紋筋融解症)につながるといえる。

この成果は、今後ヒト熱中症による筋原線維の崩壊のメカニズムの解明に寄与し、ヒト熱中症による横紋筋融解症の重症化の予防・治療法の開発等につながることが期待されると説明している。