そのほかにも、今年に入り続々と新事業を打ち出している。

まずこの春に、「ドローンハイウェイ」をゼンリンと共同で開発すると発表した。すでに既報したので詳細には触れないが、これはドローンが飛行する際、送電線を“道しるべ”にするという構想だ。法整備や安全性の確保といった課題は多く残るが、物流や農薬散布、災害時の被害確認といった領域でドローンは大きく期待されている。その市場にいち早くくい込みたいという、東京電力の意欲が伝わってくる。

地域に根ざした活動も目立ってきた。

5月には渋谷区と見守りサービスを展開するotta、そして東京電力HDによる共同記者会見が開かれ、防犯に対する取り組みが発表された。

これは、IoTを活用した見守りサービスで、ビーコンを内蔵したキーホルダーなどを子どもや高齢者に所持してもらい、発信電波を基地局で受信。現在、どこにいるのかをスマホやパソコンで把握できるという仕組みだ。東京電力はこの取り組みの中で、基地局の整備を担当する。公共施設や民間施設のほか、キリンビバレッジバリューベンダーと協力し、飲料自動販売機を基地局にするという。6月から渋谷区全域で実証試験がはじまり、いずれは有償サービスとして提供していきたい考えだ。

基地局に設置されるレシーバー(左)。右はビーコンで、スマホに現在地が表示されている

さらに大日本印刷と朝日新聞、東京電力パワーグリッドによる「うえのビジョン」という実証試験も開始される。これは東京電力PGが保有する約50,000基の配電地上機器を活用し、デジタルサイネージを展開するというもの。広告だけではなく、災害時には避難情報の表示などにも活用されるという。まずは上野恩賜公園で試験を行い、安全・安心な街づくりにつなげたい考えだ。

調印書を手にする長谷部健渋谷区長(左)と東京電力HDの見學信一郎氏

福島復興のための収益増をにらむ

このように次々と新規事業を打ち出す背景には、福島復興の責任を果たさなければならないということがある。事実、渋谷区の見守りを担当する東京電力HD 常務執行役 見學信一郎氏は、「福島復興のため、収益の可能性がある事業に積極的に取り組みたい」と話す。

また、東京電力のこうした一連の動きをみると、あることに気づく。それは、新規事業への取り組みにスピード感をみてとれること。2016年4月に、東京電力はホールディングス制に移行した。東京電力HDのもと、発電部門の東京電力フュエル&パワー、送電部門の東京電力パワーグリッド、販売部門の東京電力エナジーパートナーの3社に分割された。それにより、小回りが利くようになったと考えられる。

さらに、これまで電力供給のみに使われてきたインフラを他事業で生かそうとする姿勢が伝わってくる。大型投資ではなく、すでにある設備をうまく活用し、収益向上につなげたいというワケだ。