次に吉澤氏が説明したのが、EBMの基盤となるデータベースの高度化に対する取り組みだ。

吉澤氏によると、10年前当時のみずほ銀行には過去の統合などにより顧客に関する1000種類程度のフラットデータが5年から10年分存在していたのだという。これをどのように“使えるデータ”にしていくのかが、大きなテーマだったのだそうだ。

「データを正規化することは大事だが、正規化しすぎたデータは使いづらい。そこで自分たちの経験からデータの半正規化を行い、最終的には1000種類のインプットを100テーブル程度のデータにした。また、様々な区分値、設定値を可視化するデータをインデックスの整備に取り組んだ」(吉澤氏)

そして、データベースの整理にとって最も重要だったのが、主要情報の一元化と知見のデータ化だったと吉澤氏は振り返る。例えば、ATMや店頭、コールセンター、ウェブサイトなど様々なチャネルにおいて生まれる顧客とのコミュニケーションに関する情報は月間で2億件から3億件生まれる。

「こうしたお客さまのアクティビティについてお客さまを軸にして時間軸で理解できるようにならなければ、お客さまを理解してこれから何が起きるのかを理解できない」と吉澤氏。顧客と銀行との間にどのようなやり取りがあったのか。これを正確に把握できる基盤を作ることによって、適切なマーケティングの担保にすることを目指したのだ。

こうして生まれた一元化された顧客に関する知見は、現在は行内のIT部門で管理され、基幹システムとも連携して社内の全部門が利用できるデータベースとして機能しているのだという。顧客を軸にデータベースを管理することによって行動分析がしやすくなり、マーケティングの正確性を高めることが可能になったのだ。

1000種類という顧客データを100テーブルのデータにまとめ上げた

顧客を軸にアクティビティの履歴を一元管理できるようにした

データ理解とマーケティング企画に強い人材を育てたPDCAサイクル

このように新しいマーケティング手法と高度化されたデータベースを手に入れても、それを担う人材が育たなければ理想的なマーケティング戦略は実践できない。吉澤氏はこれまでどのようなデータマーケティング人材の育成にあたってきたかについて説明した。

吉澤氏によると、人材育成にあたって最も機能したのは“PDCAサイクルの徹底”だったという。中でも最初の「Plan(計画)」は非常に重要だったそうで、「企画をしたことがない人に“企画しなさい”と言っても簡単にできるものではない。そこで、みんなで“企画シート”というテンプレートを作成した。お客さまはどのようなニーズを持っているのか、そのニーズが顕在化したとき、データにどのような形で現れるのか、そのようなお客さまはどのような背景があり、どのようなチャネルからアプローチしているのかといった様々な設定を書き出し、対象となるお客さまはどれくらい存在して収益はどれくらい期待できるのかなどを突き詰めて考えていった」と吉澤氏は語る。このようにスタッフに計画を考えさせて、生まれたプランをEBMのシナリオに投入して効果を検証しながら改善していくという取り組みを続けたという。

人材育成のためのPDCAサイクルを徹底した

「評価にあたっては、数字だけを見ていてはダメだということ。お客さまは私たちからのコミュニケーションにどのように応えたのか、お客さまと接した人たちはどのようなフィードバックを得たのか。これらを理解するために、店舗やコールセンターで入力されるコンタクト履歴を読み込んだり、コールセンターの音声データを聞いたりして生の声を聴くようにした。すると、自分たちの理想と現場で起きている現実のギャップが見えてくる」(吉澤氏)

加えて、毎月行われた実施効果の検証では、EBMに従事するすべてのスタッフが情報の共有とディスカッションを行い、知見をチームで蓄積していったという。「PDCAサイクルを回しながら知見をチームで共有していくことによって、データ分析のノウハウ、データの理解、自分の考えを発信する力、新たなアイデアや失敗経験といった、様々なスキルの向上を実現することができた。データサイエンス、データエンジニアリング、そしてビジネス力を兼ね備えたデータサイエンティストの育成ができた」(吉澤氏)