――ソニーストアという、リアルの店舗にこだわる理由はなんですか。

河野氏 ウェブやメール、SNS、アプリなどによって、メーカーとお客様がつながりやすくなり、距離が短くなったのは事実です。ソニーのサイトに来ていただくと、どんな情報を欲しいのかがわかり、それをもとに最適なサービスや商品をご紹介したりといったことも可能です。しかも、デジタルの仕組みを活用することで、お客様が欲しいと思ったときや、新製品が発表されたときなどに、タイムリーに情報を届けることもできるようになってきました。

しかし、それだけでは不十分だといえます。デジタルだけで、お客様との接点が完璧になるとは思っていません。ハイレゾオーディオの音の迫力、デジタル一眼カメラのシャッターを切るときのワクワクした感触、プレイステーション VRのような新たなデバイスでの体験などによって得られる感動はやはり、リアルの店舗でなければ実現できないものです。

デジタルマーケティングにより、最適な情報を提供し、その一方で、リアルの店舗において感動の体験をしていただくという両輪があってこそ、ソニーファンを創出できるといえます。デジタルの情報発信だけに留まらず、ソニーストアによるリアルの顧客接点の場を活用することで、ソニーファンとより緊密な関係を築きたいと考えています。

ソニーストア札幌のオープン日、河野社長が開店から閉店までずっと入口で来店客を迎えた

――体験してもらうことを重視するソニーストアは、売り上げにはこだわらない、と。

河野氏 いやストアですから、独立して運営できるだけの売り上げにはこだわります(笑)。ただ、売り上げが一番の目的ではなくて、ソニーファンを作り、ソニーの商品をたくさん購入していただければいい。購入していただく場所は、ソニーストアでなくても、近くの量販店でも、地域店のソニーショップでもいいわけです。実際、量販店がソニーストアを活用したイベントを開催したり、地域の量販店と連携したキャンペーンを実施するといったことも行っています。昨年4月にソニーストア福岡ができてから、My Sony IDの加入者数は全国では7%増でしたが、福岡では15%増と2倍の伸びをみせています。ソニーストアが出店することで、その地域におけるソニーのシェアが上がったり、市場が盛り上がるといった循環を目指しています。

――2016年4月に福岡、2017年5月に札幌と出店が相次ぎましたね。その間、2016年9月には銀座も移転オープンしています。

河野氏 福岡、銀座と続きましたから、札幌はもう少し先ということも考えていたのですが、店舗というのは物件がすべてです。ちょうどいい物件が出たということもあり、出店を決めました。福岡では、アップルストアと道を挟んで反対側に出店でき、それによって相乗効果も生まれました。物件が重要だということは、福岡で学んだノウハウだともいえます。

――ソニーストア札幌の出店場所は、かつてアップルストア札幌があった場所ですね。

河野氏 そうです。札幌市営地下鉄「大通」駅から徒歩1分の位置にあり、三越札幌の隣ですし、周辺にはファストファッションブランドが出店しています。今は、元アップルストアだった場所と言った方がわかりやすいのですが、なるべく早いタイミングに、「ここは、ソニーストアの場所だ」と言ってもらえるようにしたいですね。