名古屋大学は、同大学大学院理学研究科の谷口博基准教授、寺崎一郎教授、田辺賢士助教らの研究グループが、ファインセラミックスセンターの森分博紀主席研究員ら、広島大学の黒岩芳弘教授、森吉千佳子准教授らとの共同研究で、間接型強誘電性を示すゼオライト型化合物(Ca,Sr)8Al12O242: (M=W,Mo)を新たに発見したことを発表した。この研究成果は、3月24日に米国科学雑誌「Physical Review Applied」、2月28日に米国科学雑誌「physica status solidi (RRL) - Rapid Research Letters」オンライン版に掲載された。

ゼオライト型化合物(Ca,Sr)8Al12O242:(M=W,Mo)の結晶構造(出所:名古屋大学Webサイト)

太陽光などの半永続的なエネルギー源による発電や産業排熱や生活排熱などの廃熱からのエネルギー再利用に向けた技術開発・材料探索が盛んに進められているなかで、現在は温度変化から電力を取り出すという新しい環境発電技術「焦電発電」が注目を集めている。

強誘電体と呼ばれる物質系では、温度変化によって自発分極の大きさが変化する焦電性を示し、この焦電性を利用すると温度変化を電気エネルギーに変換することができる。このような焦電発電においては、比誘電率が小さいほど発電効率は向上するが、強誘電体の比誘電率は一般的に大きいため、焦電発電素子としての性能が制限されることが課題となっている。

これに対し同研究では、焦電性と小さな比誘電率を同時に備えた新しいゼオライト型化合物(Ca,Sr)8Al12O242:(M=W,Mo)を見いだした。この物性は間接型強誘電性と呼ばれ、強誘電性とは異なるユニークな強誘電性を示すものだ。電場印加を伴わない最もシンプルな焦電発電サイクルのひとつであるsynchronized electric charge extraction (SECE)を用いた場合の焦電発電素子としての性能を評価したところ、PZT 等の従来の強誘電体を凌駕する性能が見積もられたという。

ゼオライト型化合物(Ca1-xSrx)8Al12O242 の自発分極(出所:名古屋大学Webサイト)

同研究は、焦電発電素子開発において間接型強誘電性を利用した新しい材料設計原理を提案するものとなる。焦電発電がエネルギー源とする「温度変化」は実社会の至る所に存在するうえ、焦電発電素子のデバイス構造はシンプルであるため、個々の焦電発電素子の発電効率自体はそれほど大きくないものの、本来捨てられる廃熱を身の回りのあらゆる場所で電気エネグリーとして回収できる。焦電発電によって得られる再生エネルギーは積算として非常に大きくなると見込まれ、ますます深刻化するエネルギー問題に対する解決のひとつの糸口となることが期待できる。

ゼオライト型化合物(Ca1-xSrx)8Al12O242 の焦電素子としての性能比較(出所:名古屋大学Webサイト)