ホームボタン廃止で問題となるのは関連のUIもさることながら、指紋認証機構の「Touch ID」の行方だ。特にTouch IDは「Apple Pay」を起動する重要なキーであり、これの廃止は決済場面での利用を大きく左右する。Appleは公式には説明していないものの、Apple Payのサービスを銀行側のシステムと接続するにあたって、おそらくTouch IDのようなセキュリティ機構の利用による安全性の高さを前提に契約を結んでいる可能性が高い。そのため、何らかのTouch ID代替となる認証機構の採用が必要だ。一時期、タッチパネルに指紋認証機構を備える仕組みが噂されていたりしたが、現在では正面のフロントカメラを使った認証機構が採用される可能性が高いとされている。

1-2カ月ほど前に噂されていたのが「顔認証」の採用で、2月中旬には「虹彩認証」の採用が台湾Digitimesのソースの引用で話題になっている。どちらも共通点はフロントカメラを使って認証を行う点で、iPhoneを顔の前に持ってくるだけで自動的にロック解除が行える。Apple Payもこの応用で、支払いのタイミングで再度顔認証を行うだけだ。「アプリやWebブラウザでのオンライン決済はそれでもいいけど、店舗でNFCを使って支払うときは顔認証だと都合悪いんじゃないの?」と思う人もいるかもしれない。すでにMicrosoftが同社「Microsoft Wallet」のサービス提供でLumia 950/950 XLで採用しているが、支払時に虹彩認証を済ませた状態にしておき、端末を非接触の読み取り機にかざすことで支払いを行える。認証から支払いまでの数十秒程度の猶予時間は「Grace Time」と呼ばれ、安全性と利便性を両立させる。ただ、Apple Payは非接触読み取り機に近付けた時点でWalletのカードを利用するモードに自動的に切り替わる機構を採用しており、この場合はTouch IDを使った支払いはスムーズに処理できるので非常に相性がいい。これを顔認証や虹彩認証に切り替えた場合、意図的にApple Payを起動するか、あるいは一度端末にiPhoneをかざした後に再び認証を行うなど煩雑な手順が必要になる。筆者の予想だが、OLED搭載モデルの市場投入にあたってAppleは「Apple Pay」の処理フローに何らかの手を入れてくる可能性が高い。

また顔認証と虹彩認証のどちらが本当に採用されるのかだが、筆者が独自の情報筋から聞いている話では虹彩認証の採用を進めている話だった。どの技術方式を採用するかは不明だが、虹彩認証では瞳の周囲にある細かい"しわ"を読み取って相手を判別する。精度が高い反面、認証までに若干タイムラグがあるのと、メガネ利用時に若干判別しにくい問題もある。顔認証は3Dカメラ技術を応用したもので、目や鼻などの特徴を基に相手を判別する。Surface Pro 4などWindows Helloに対応した最新PCですでに体験している方も多いかもしれないが、カメラから多少離れていたり、正面の角度でなくても一瞬で判別されるくらい反応がいい技術だ。ただ、多くの顔認証ソリューションで採用されている3Dカメラ技術は赤外線センサーを用いており、バッテリの消費問題のほか、明るい場所での誤判定が多いという問題がある。特に後者は屋外利用が多いiPhoneでは致命的な可能性があり、もし採用する場合にはAppleが何らかの対策を行ってくるだろう。

最後が無線充電だ。先日、AppleがQiを擁するWireless Power Consortiumに参加したことが報じられ、次期iPhoneでの無線充電採用に関する噂に拍車をかける形となった。無線充電は発熱や電力ロス等の理由により急速充電が難しいものの、ケーブルレスで運用できるためこまめな充電がしやすくなるといわれる。また充電がワイヤレスとなることで物理的なケーブルを必要としなくなり、ホームボタン廃止と合わせ物理的なボタンやコネクタを一切持たない携帯電話の開発が可能になる。さすがにそこまで大胆なデザインをAppleが採用するかはわからないが、可能性の1つとしては非常に興味深いものだ。ただ、無線充電採用にあたっては充電用のコイルを本体側に搭載する必要があり、現在のような金属シャーシの採用が難しくなると予想される。Appleは金属シャーシの採用で近年のiPhoneでの薄型軽量化を実現しており、OLED採用と合わせて本体デザイン上の大きな分岐点となるだろう。

この無線充電だがポッと出の話題ではなく、Apple自身はもう長年にわたって無線充電に関するプロジェクトを走らせており、どのタイミングで実際に製品に投入するかの機会をずっとうかがっていたという話を聞いている。特に2017年に登場する製品にはかなり意欲的に採用を考えているようで、搭載する製品もOLEDモデルのiPhoneだけでなく、"すべて"のiPhoneへの採用を考えているという。この場合、既存iPhone (4.7インチと5.5インチ)の筐体デザインにも何らかの手が加えられることになるだろう。アクセサリ市場も大きく動かす話題となるため、特に最終デザインでのiPhone生産が始まる5-6月以降の動向に注視してほしい。