ファブレス経営で東北地方の企業に貢献

鎌田氏

C&Aの特徴は、自社で工場を持たないファブレス経営を採用していることだ。「我々が得意なのは、開発から量産化一歩手前のレシピを作るまで。量産までを本気でやってしまうと、手が足りなくなってしまいます。そこで、社内でプレ量産までの技術を開発し、その技術を地域の企業に移転して量産化してもらうということを各材料ごとに進めています」と、代表の鎌田氏は同社の戦略について説明する。

国内では現在、東北地域の企業5社と提携し、結晶製造を委託している。GAGGの製造の一部を担うのは、秋田県の由利工業という電子部品製造を行う企業だ。東北では名前のある会社で、由利工業との提携を機に、ほかの企業もC&Aからの委託を受け入れるようになったという。現在は知りあいづてで委託先を探している状況だが、鎌田氏は「今後のさらなる事業拡大に向け、パートナーを増やしていきたい」と意気込む。

庄子氏

委託先は地元・東北の企業だが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスに試作品を提供するなど、顧客はグローバルだ。欧州原子核研究機構(CERN)の次世代検出器開発プロジェクトにも、アジア唯一の開発チームとして参画する。

また結晶だけでなく、結晶製造装置のニーズも出てきているという。つい最近、米国の大学の研究室へ導入した装置の立ち上げに行ってきたという庄子氏は、「組織の人たち全員が見守るというプレッシャーのなか(笑)、その装置できちんと結晶が作れるということを証明しました。普通のメーカーと違うところは、売りっぱなしにしないということですね」と、自信をみせる。

大学発ベンチャーのハードルはどこにあるか

近年、国を挙げて大学発ベンチャーを生み出していく流れはできつつあるが、「国立大学の教員がお金を稼ぐのは下品だ」という前時代的な考えが、それを阻害しているケースも時折みられる。吉川教授は、「我々は大学の職員という立場ではありますが、雇用している人たちやその家族も含めるとかなりの人数を抱えていますし、連帯保証人になるなど、リスクを背負って会社を運営しています。ズルをして儲けることはもちろんダメですが、苦労して成功した場合に、努力の対価として少しくらいは報われることがあってもいいと思うんです。そうでないと、誰も大学発ベンチャーをやろうとは思わないのではないでしょうか」と、まずは関係者の意識を変えることが重要であるとする。

また、鎌田氏は、大学発ベンチャー設立に興味はあるが、何から手をつけてよいかわからない研究者が多いことについても指摘。「登記の手続きなど、まっさらな状態から会社を作ろうと思うと、わからないことは意外と多くあります。しかし、最近では自治体などの支援体制が整ってきており、大学内にそういった情報が周知されるような仕組みがあるだけで、状況は変わるのではないかと感じています」(鎌田氏)

倍々成長を続けるC&A。今後の展望について吉川教授は「社員教育にも力を入れたい。起業にあたってさまざまな経験をしたので、それを新入社員たちに伝授して、彼らに事業を任せていくという流れを作っていきたいですね」と語っていた。現在C&Aは、吉川教授ら兼業メンバーを含めて15名のスタッフで運営されている。研究室の卒業生が新卒で入社するなどの良い流れがでてきており、今後のさらなる飛躍が期待できそうだ。

C&Aが開発する結晶 (出典: C&A Webサイト)