テクノロジーが自動車業界にもたらしている変化
Kowalski氏がテクノロジー面から「ものづくりの未来」を語った一方で、CEOのBass氏は新しいテクノロジーが起こしているトレンドの変化について、自動車業界を例に説明した。
Bass氏は自動車業界が対応に追われているトレンドの1つとして自動運転を挙げ、「約100年間、自動車メーカーはドライビングエクスペリエンスを向上させることに心血を注いできた。しかし、自動運転ではドライビングエクスペリエンスなどは存在しない。彼らは究極のパッセンジャー(乗客)エクスペリエンスを作り出す必要がある」と指摘。その実現のために、複雑なセンシングシステムや制御システム、ミリ秒単位で対応可能なソフトウェア、学習機能などが必要となり、もはや車ではなくドライバーを開発しているようなものだとした。
また、消費者が車を所有するのではなく、利用することに価値を見出していることも大きな変化の1つ。これまで、車はドライバー(すなわち運転に価値を置く人)に向けて販売されてきた。しかし、例えばUberのように、車をあくまで交通サービスの1つとして捉える動きが強まっている今、自動車メーカーはビジネスモデルの見直しを迫られている。「もし街の反対側まで行きたいだけなら、1時間で40マイル移動できるGoogleの自動運転車を利用すれば良い。もし、高速を使ってより長い距離を移動したいなら1時間で180マイル移動できるメルセデスの自動運転車を利用することになる。こうした変化に対応できる会社が勝ち残るだろう」(Bass氏)。
電動パワートレインも自動車メーカーが取り組まなければならない課題となっている。Bass氏は「5年前にある大手自動車メーカーと話をしたが、彼らは電気自動車を完全に馬鹿にしていた。その会社は2年くらいそのスタンスを崩さなかったために今は追いつくのに苦戦している」とのエピソードを紹介し、将来を見越した研究開発の重要性を説いた。
変化はチャンスだ
このようなトレンドの変化により自動車業界は大きな課題に直面しているが、同様の現象はソフトウェア業界でも発生している。しかし、Bass氏はそれをチャンスとして捉えるべきだとする。「変化が起きているときは、それを無視するか逃げ出したくなるものだ。しかし、本当はその方向に向かっていかなければならない。新しいトレンドは、新しい価値を生み出し、企業をより大きくする可能性を秘めているからだ」(同氏)。
ソフトウェア業界におけるトレンドの1つがKowalski氏が挙げたマシンラーニングだ。Kowalski氏はマシンラーニングを製品の設計に用いるインパクトについて説明したが、Bass氏はソフトウェアの開発にもマシンラーニングを活用することで、ハードウェアのスペックを向上させなくてもソフトウェアのパフォーマンスを改善できると説明。その一例がオートデスクののクラウドサービス「A360」で提供されている機能である「Design Graph」だ。
「Design Graph」は3Dデータの形状からユーザーがどのようなプロジェクトに取り組んでいるかを判別し、似た形状のデータや関連するデータを提示する機能。例えば、データの中にボルトがあれば、ナットやワッシャーのデータが提案される。また、ユーザーが次に必要とするデータを推定し、既存のデータで活用できそうなものを自動的に提案する。これにより、設計時間の短縮につなげるというわけだ。Bass氏は「オートデスク製品がクラウドベースとなることで、ユーザーの使用方法を学習できるようになる。従来の製品は(自動的に)機能が向上することはなかったが、新しい製品は違う」と製品開発の方針を示唆した。
さらに同氏は、今後はチーム単位で利用する製品の開発に注力する方針も明らかにし、その理由について以下のように説明した。「34年間、個人向けの製品は良いものを提供してきたが、そこにこだわっていては電気自動車のトレンドに乗り遅れた某自動車メーカーのようになってしまう。これからはよりチームの生産性を上げる製品を提供していく。なぜなら、チーム内でうまくコラボレーションができなければ、競争力を獲得することなどできないからだ」(Bass氏)。