米GoogleがUSB PD(Power Delivery)以外の急速充電技術、例えばQualcommのQuick Chargeの排除に乗り出していることが話題になっている。同社は業界標準となっているUSB PD以外の急速充電技術を互換性を損なうものとして、OEM各社に向けた最新のAndroid互換性ガイドの中で「サポートしないよう強く推奨する」と記しており、今後数年をかけて標準への統一へ向けた動きを見せている。この背景を少し探ってみよう。

USB-IFのWebサイト。MicrosoftやIntelらがボードメンバーとして名を連ねる

USB PD(Power Delivery)とは、USBケーブルを用いて接続した機器への給電を行う技術だ。USBでは、最初期の規格である1.x時代からすでに「バスパワー給電」という仕組みを備えており、「ホスト」と呼ばれる上流側デバイス(PCなど)から「ペリフェラル」と呼ばれる下流側デバイス(マウスやプリンタなどの周辺機器)へと最大500mA×5V=2.5Wの給電が可能となっている。これは、バスパワー給電によって外部電源なしで周辺機器を動作することが目的で、例えば持ち運び可能なモバイルHDDなどはバスパワー給電のみでHDDが動作し、接続したPCからデータの読み書きが行える。このUSBの向きは「マスター/スレーブ」という形で一意に決まっているが、最近ではスマートフォンやタブレットのように「充電時やPCとの接続の際にはペリフェラルとして動作し、外部の周辺機器との接続を行う場合にはホストとして動作する」という双方向動作が可能な製品が増えている(「USB On-The-Go」または「OTG」と呼ぶ。スマートフォンやタブレットがホストとして動作する場合、USB端子に接続した周辺機器はホストとなったスマートフォンまたはタブレットから電源供給を受けることになる。

ただ、バスパワー給電では昨今の大型タブレットやPCなどの充電を行うにはパワーが足りず、またスマートフォンであっても大容量バッテリを搭載する製品が増えたこともあり、充電完了までに非常に長い時間を要するという問題があった。供給電圧を上げるなどの手法でUSB本来の仕様をわざと外して大型デバイスや急速充電を可能にする製品も一部では登場していたが(iPhoneやiPadが有名)、本来の基準を超えた電流を市販されているUSBケーブルに流すのは炎上や爆発の危険もあり、本来はあまり推奨されない方法だ。そこで標準化団体のUSB-IF(Implementers' Forum)がUSBを通じた大容量給電の方法を仕様化したのがUSB PDとなる。

前述のように標準のバスパワー給電は最大500mA×5V=2.5Wとなっているが、USB PDでは給電容量によって5つのプロファイルに給電タイプを分類しており、その最大のものは5A×20V=100Wと最大で100W給電が可能になっている。ただし従来のType-Aやmicro-B方式のものは最大でも60W以下に抑えられており、実質的に新規格であるType-C(USB-C)が必要となっている。Type-CのケーブルはUSB 3.1以降に定義された「コネクタに裏表がない」という新しい形式のもので、新型MacBookや新型MacBook Proですでに全面採用されている規格ではあるが、まだまだ採用例は限られているのが現状だ。GoogleのNexus 5Xなどでも採用されているが、こちらはUSB 3.1ではなく「USB 2.0」がベースとなっており、通信速度は2.0の最大480Mbpsに抑えられている。

USB PDの問題の1つは「粗悪なケーブル」であり、仮に100W給電が行われた場合にケーブルとアダプタともに負荷に耐えられるかが課題となる。例えば、新型MacBookに付属するUSB-Cの給電アダプタ(USB PD)は29W仕様だが、新型MacBook Pro 15インチ版に付属するアダプタは87Wとなっている。USB PDの上限である100Wにほぼ近い給電容量となるが、それだけケーブルとアダプタにはシビアな品質が求められるといっていいだろう。サードパーティ製品を選ぶ場合には特に注意し、値段だけを見て製品を購入することがないようにしたい。