1991年の10月25日に、Appleは初のノート型Mac「PowerBook」を発表した。つまり、今年ポータブルMacは25周年を迎えた。その長い間、ポータブルMacは順当に進化してきたわけではない。トラックパッド、USB、バックライトキーボード、フラッシュストレージ、アルミニウムのユニボディ、Retinaディスプレイ、感圧タッチトラックパッド等々、様々なテクノロジーを採用し、そして古いものを捨ててきた。定義と再定義を繰り返しながらポータブルMacは進化してきたのだ。キーノートのスクリーンに現れた「PowerBook 170」は今日のMacBookに比べると無骨で、並べてみるとまるで違うデバイスのようであり、25年の進化の大きさが伝わってくる。

25周年のアニバーサリーを迎えたポータブルMac

25年の進化、処理能力は680万倍も高速に、PowerBook 170が1年かかる処理をMacBook Proは5秒以内で完了できるそうだ

新しいMacBook Proの説明で、Phil Schiller氏が最初に触れたのはサイズだ。13インチモデルは前世代より17%薄く、そして体積は23%少ない。1/4近く小さくなった。15インチモデルは14%薄く、20%小さい。これまでMacBook Proはプロフェッショナル向けの性能や拡張性が優先されてポータビリティが犠牲になっていた。新しいMacBook Proは「Pro」にふさわしい性能を備えながら、今日のユーザーがノートPCに求めるポータビリティも実現している。

13インチ、15インチともに前世代よりも大幅に薄く、”ポータブル”と呼ぶのにふさわしいデザインに

15インチモデルは前世代から、3Dグラフィックス:130%+、ゲーム:60%+、ビデオ編集:57%+、薄くなってもプロフェッショナルユーザーやクリエイターがMacBook Proに期待するパフォーマンスは健在

そして新インターフェイス「Touch Bar」だ。Retina品質の有機ELパネルを用いた細長いマルチタッチディスプレイで、今までFキーが収まっていた場所に配置されている。ファンクションキーは45年以上前からキーボードの大きな部分を占め続けてきた。もちろん今でも使われているが、そのスペースを最大限有効活用する機能になっているか、と考えたら疑問符が付く。

Touch Barを説明する前に、45年以上の歴史を持つファンクションキーを鎮魂

iPhoneから3.5ミリヘッドフォンジャックを省略したのと同様、レガシーな機能を見直して、そのスペースを有効に活用

Touch Barは、これまで同様システムコントロールキーとしても機能し、Fnキーを長押ししたらFキーが現れる。それだけではない。FaceTime通話がかかってきたら「応答」「拒否」ボタンが現れ、メールやメッセージでテキスト入力している時には入力候補や絵文字を選択できるなど、使用しているアプリケーションに応じてふるまいを変える。マルチタッチだから長押しやスライドといったジェスチャー操作が可能で、指でスライダーをスライドさせて音量を調整するなど、開発者のアイディア次第で活用方法は無限に広がっていく。

アプリケーションに応じて機能やふるまいを変えるTouch Bar、Safariやメール、iTunesからターミナルまでAppleのソフトはほぼ全て、そしてOffice、Photoshop、Pixelmator、Affinity Designer、djay Proなどサードパーティも対応を進めている

キーノートのデモでは、Touch Barによってフルスクリーン状態で作業しやすくなることが度々アピールされた。たとえば、写真をレタッチする時、画面全体に写真を大きく広げて、ツールバーもメニューバーも何も表示されていない状態でも、作業に必要なコントロールがTouch Barに並び、指先で操作できる。

Photoshopの画像加工デモ、メニューやツールはTouch Barに表示されるので、ディスプレイ全体に写真をフルスクリーン表示して作業を進められる

写真や動画をフルスクリーン表示し、Touch Barのプレビューでブラウズ

25年前のPowerBookと今日のMacBookを比べて、変わっていないのはクラムシェルであることだ。それがノートPCの基本形とAppleは考えているのだろう。その形を崩すならiPad Proのようなユーザー体験になる。MacBookはクラムシェルのメリットを活かすように進化させる。Touch Barによって、手元でメニューやツールを操作できるようになり、その分ディスプレイでは大きくコンテンツを表示することが可能になる。ディスプレイと操作部分が分かれたクラムシェルの特徴を活かせるインターフェイスだ。Appleはこれまで、OS Xでフルスクリーンアプリケーションを導入し、またメニューバーを自動的に隠すオプションを追加するなど、コンテンツを大きく表示する試みを積み重ねてきた。Touch Barは、それを大きく前進させるものになる。

Touch IDを利用できるのも見逃せない。デバイスのアンロックやApple Payを用いた買い物、iTunesストアなどでの認証のほか、Macではロックされたシステム環境設定の解除、ロックされたメモの解除、ユーザーの切り替えなどにも使用できる。

サファイアガラスでカバーされたTouch ID、T1という新しいセキュリティチップによって制御されている

デバイスがポータブルになるほどに、より強固なセキュリティが必要になるが、セキュリティは面倒な使用体験にもなり得る。PCで指紋認証はすでにめずらしい機能ではない。だが、活用できる範囲は様々だ。Touch IDは、iOSを含めたOS、ハードウエア、サービス、つまりAppleのプラットフォームに統合されており、シンプルに使えて、MacBook Proを使う様々なシーンで安全かつ便利なソリューションになる。

2倍の大きさになったトラックパッド、この大きさだとメカニカルなトラックパッドでは誤動作が起きる。ソフトウエアで制御される感圧タッチトラックパッドという進化を経てきたMacBookシリーズだから可能な大きさだ