Apple Payが間もなく日本に上陸する。いまのところ、9月7日(米国時間)に米サンフランシスコで開催されるAppleのスペシャルイベントで何らかの発表が行われる可能性が高いとみられており、サービス自体は10月以降に順次開始になると予想される。ここでの最大の目玉は新型iPhoneにおける「FeliCaへの対応」だが、これも含めた形で「Apple Pay国内上陸」と「FeliCa対応」について少し考察してみたい。

AppleがiPhoneにFeliCaを搭載する背景

「Appleが新型iPhoneにFeliCaを搭載する」――この話題を最初に報じたのは石川温氏が日本経済新聞のオンライン版にコラムとして掲載した「iPhoneにフェリカ 『おサイフ』に現実味」だ

同氏はこれまでにも過去1~2カ月ほどにわたって「新型iPhoneにFeliCaが搭載される」という噂について周辺取材を重ねており、そこでの情報を自身が発行するメルマガで何度か公開している。そして日経での記事掲載からわずか2時間後、今度は米Bloombergが「Apple Plans iPhone for Japan With Tap-to-Pay for Subways」という記事を掲載している。この記事を執筆したMark Gurman氏は、以前まで在籍していた9 to 5 MacでApple関連のリーク情報を多数報じて実績を積んでいる記者で、Bloombergが最近になりApple関連の最新情報報道で目立つ成果を挙げているのも同氏の手腕に依るところが大きい。日本周辺で取材活動を続ける石川氏に対し、Gurman氏はAppleを含む米シリコンバレー周辺を主な活動領域としている。つまり、日米同時に同じスクープを出したというわけだ。

手前味噌ではあるが、筆者もBloombergの記事公開をみて、現在掴んでいる最新情報をまとめて同じ日にEngadget日本語版で「iPhoneがおサイフケータイ(FeliCa) に対応か。Apple Payが間もなく日本上陸」として記事化させていただいた。この後、新聞系の媒体を中心に新型iPhoneのサービス展開にソニーやFeliCa Networksが噛んでいるとの報道を行うところが出てきており、少なくとも「新型iPhoneでのFeliCa搭載」がほぼ裏付けつつあることが見込まれる。実際、すでに初報段階で3人の記者が別々の情報源から同じ情報を掴んでいたわけで、Apple Payの日本上陸と新型iPhoneでのFeliCa対応はほぼ既定路線となっていたと考える。今回は周辺情報も含め、この裏側を少し話したい。

一般には、AppleがiPhoneへのFeliCa搭載を決断したのは、交通系モバイルNFCでの世界標準を策定すべく欧米の交通標準化団体と東日本旅客鉄道(JR東日本)、GSMA、NFC Forumが集まって「NFC-F」を標準として組み込むことを決定したのが大きいといわれる。JR東日本の非接触ICカード「Suica」では、1分間に60人が通過することを想定したシステム構築が行われており、これは世界的に標準として利用されているType-A/B方式では実現が難しく、Type-FのFeliCaチップを採用する必要があると同社では説明している

そのため、「日本が世界に合わせるのではなく、日本の仕様を世界標準として取り込んでほしい」というのが関連団体における交渉での(少なくとも日本にとっては)重要なポイントとなっていた。結果として、本誌でも小山安博氏が報じているように「NFC-F」が標準インタフェースの1つとして採用され、2017年4月以降にGSMA準拠でグローバル端末として提供されるNFC対応携帯電話は、すべてNFC-F対応が求められることとなった。ただ、NFC-Fはインタフェースの部分だけでしかなく、今後JR東日本が想定するような処理速度の実現には「FeliCaチップの搭載」が求められるようになる。これは今後詰めていかなければいけない部分ではあるが、Appleがこれを見越して先行する形で最新iPhoneにFeliCaを搭載しようと考えても不思議ではない……というのが、一連の背景だ。