サイボウズは2日、同社のビジネスアプリプラットフォーム「kintone」のUI/UX改善に関する技術説明会を行った。
kintoneがUI/UXを重視する理由
各種グループウェアの提供で知られるサイボウズだが、kintoneでは特にユーザーの利用体験をすることに力を入れているようだ。kintoneプロダクトマネージャー 伊佐政隆氏は、「kintoneの成長上、デザインへの投資は重要」と明言したが、それには同プラットフォームの設計思想が大きく関係している。
「kintone」の特徴は、企業内で用いられるアプリケーションの開発を、それを使うユーザー自身が行えることにある。プログラミングの知識がなくても使える一方、プログラマが開発可能な余地もある。業務をよく知る現場のユーザーが自身でプログラム構築でき、技術を持つプログラマが開発に参加すると、より高度なアプリケーション構築が可能になる構造となっている。
そうした性質から、導入先企業の大半、8割ほどが情シス部門からの依頼ではなく、それ以外の契約部門となっており、非技術畑のユーザー目線でのニーズが見て取れる。一般的なアプリ開発の周期より早く、多く作れることがメリットとだとし、毎日700個以上のアプリが開発されていると明かした。
伊佐氏は「システム開発は丸投げ型から参加型へ」というキャッチフレーズを強調し、kintoneが業務用アプリケーションの開発方法から変えるプラットフォームであると語った。
シンプルに、わかりやすくした新UI
kintoneは、8月中に新たなUIの導入を予定している。サイボウズ デザイングループ マネージャー 柴田哲史氏は変更方針として、「シンプルで統一性のあるデザイン」、「操作性の向上」、「ユーザーヒアリングによる検証」という3つの要素を上げた。
新UIでは、現行のデザインに比べてアプリの公開までのステップ数を削減。アプリ名の欄とフォームへの機能入力が1画面に収められ、この2ステップを設定すればすぐに公開にこぎつけられるようなレイアウトに変更した。
この変更は、同社が上海と日本で行ったプロトタイプのユーザビリティテスト、および日米で行われたユーザビリティテストの結果採用されたもの。結果、アプリの作成時間を30%削減することに成功したという。既存ユーザーと新規ユーザーを半数ずつヒアリングしつつ、既存ユーザーの違和感をなくすことを重視しながらも、UIのシンプル化によるユーザーの好反応を確認したそうだ。
サイボウズのデザイン体制と3つの柱
サイボウズのデザインチームには現在、国内に9名、上海に2名が在籍。そのうち3名がkintoneのデザインを担当している。
ユーザーの利用状況を訪問して実際に見るなど「リサーチ」の領域を重視していて、これに加え、グローバルでの利用しやすさやアクセシビリティを考える「ユニバーサル」、そしていわゆる「デザイン」の領域であると考えられているビジュアル面に取り組んでいるという。
社内での取り組みにおいても3つの柱となる方針を設けており、チーム間コミュニケーションを増加させる「Good Team!」、顧客のオフィスを訪問でのユーザー観察のほか、マイクロソフトやアドビなど最新の開発現場の見学、ワークショップの開催など、新たな発想を得ることを重んじる「Good Idea!」、そしてプロトタイプ作成とユーザーテストというスピード感を重んじる「Good Prototype!」が上げられた。
ユーザビリティは誰のためのもの?
最後に、kintoneの開発・運用を担当する同社エンジニアの小林大輔氏が、デザインチームの解説でも言及された「アクセシビリティ」について語った。小林氏は、弱視の同社社員のユーザビリティテストを行ったことをきっかけに、Webアクセシビリティについての周知とシステムへの実装を行っている。
「Webアクセシビリティ」は、障害者、高齢者を含めて"すべての人"がWebにアクセスできることを指す。一例として、グラフの項目の示し方を挙げ、色に頼った表示方法では色覚異常の人には識別が難しいケースがあると説明し、各部位に直接項目を配置するほうがより適切であるとした。
こうした対応について、あくまで"一部の人向け"という認識も強いかもしれないが、小林氏は「カラーのグラフを白黒で印刷しなくてはならない場合」を例に挙げてそうした向きを否定。Webアクセシビリティに準じたデザインを採用することで、結果的に「すべての人」が使いやすいデザインとなるのだと強調した。kintoneでも、テキストエリアのコントラストを国際基準に則って設定したり、フォームをキーボードのみで操作可能にしたりするような対応を行っている。
「アクセシビリティに関して、"人"の多様性だけにフォーカスしがちだが、人、デバイス、利用環境の特性を考えるものである」と小林氏は語る。デバイスひとつ取ってもモバイル、PCなど多様化は進んでおり、それを使う環境が屋外か、料理中か、あるいは運転中かなどで、アクセスしやすさへの対応は変わってくる。
Webアクセシビリティには国際基準「WCAG 2.0(Web Content Acceability Guideline)」が設けられており、アメリカ、カナダでは企業への準拠要求の判例・事例があり、韓国では同国にあわせた独自の基準を設けられている。日本でも、2016年4月1日から施行された「障害者差別解消法」にWebサイトのアクセシビリティ対応が含まれているが、民間企業に対しては「努力義務」となっており、各自の裁量に任せたゆるやかな規定となっていることに言及した。
「現状、日本では法で守られないため、「他の優先事項がある」「割に合わない」など言われてしまいがちなので、(各企業が)アクセシビリティ対応に取り組む目的を見据えないといけない」と小林氏。「アクセシビリティはチームにアクセスする能力」とも語り、同社の理念に沿ったかたちで対応が進んでいるといえる。なお、現状、サイボウズでは同氏の周知活動の結果、部門をまたいで賛同者が広がっている状況だという。