3:編集からのフィードバック

デザイナー・田中秀幸さん:
Sさんからの返答は「半額シールのやつがいいですね!」でした。部内でも「半額シール」が元ネタと理解していただけたようで、このデザインを練り上げる方向で進み始めたかのように思いました。

しかし数日後、Sさんから、半額シールの「もっと」と「負ける技術」を続けて読みにくいのではないか、そして「もっと」を「もっと派手にしたい」、パチンコ屋ののぼりのような感じで「もっと」をたてに入れるのはどうだろうか、という内容の修正及び新規提案のメールが届きました。「日常と退廃」がタイトルに入った追加修正もこの時です。

ですが、こちらとしては負けてる感満載の半額シール案をつぶしたくありません。編集サイド、デザイナーサイドでも納得できるような装丁を目指します。

まずは編集Sさん発案ベースで、「のぼり」で使われるような墨字フォントを選び、のぼりデザイン案を作ります。

あと、半額シール案も横でなく縦書きにして作りました。

円形を大きくして目立たせたくても、大きくするだけでは「負ける技術」に近づけることができず、ただ読みにくくなってしまいます。そこでめくれを作ってその分「負ける技術」にかぶせられるようにしました。

最後に折衷案です。のぼりのフォントを使い半額シールの中におさめます。

この折衷案が決め手となりデザインが決定となりました。

本来デザイナー側で早く折衷案に辿り着くべきだったんですが、僕がどうしても「もっと」の形態をゴシックにこだわってしまったので、結果的に時間がかかってしまいました。

4:めくれ感の演出

デザイナー・田中秀幸さん:
あとは半額シールにドロップシャドウをかけて、フチの赤色などを追加したりするなど、もっとリアルに作り上げます。

ちなみに、カレー沢さんの関羽はクレムリンからの抜粋です。「描き下ろししてもらいましょうか?」と連絡が入ったんですが、この悲壮感が妙にハマっていたのでそのままで行かせてもらうことにしました。

5:帯

最後に、帯のデザインです。帯で使える色は2色なので、下地ベースの色に近いマゼンタ系を使います(青や黄色といった色を帯で使うと、半額シールの赤・黄色が目立たなくなるので)。

帯をカバーデザインにあわせたフォントでまじめに作ってしまうと、ポップさがなくなります。帯では通りかかる人に「ん?何か面白そう」と思わせたいので、丸ゴシックを使いました。丸ゴシックで作ったコピーだと、ハードルが低そう、読みやすそうといった印象もでてきます。

また、カバーと同じ色味のマゼンタを選ぶと沈み込む(文字色として使いにくい)ため、あえて若干明るめのマゼンタにしました。

以上が『もっと負ける技術』のデザインができあがるまでの流れとなります。

カレー沢さんの総評:

私が見せてもらったのはほとんど決定案だったので、その前にこんなにたくさんの案があったとは知りませんでした。この本で一番労力がかかっているのは表紙かもしれません。しかし、「負ける技術オブザデッド」をボツにされたことは一生忘れません。

マイナビニュースで連載の人気コラム「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」が文庫化された『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』は、本日7月15日より発売。早々に在庫分が完売したという噂のAmazon.co.jpほか、お近くの書店・Webストアでお手にとってみてください!

文庫には第56回までが収録されていますが、連載は好調に続行中!続きはこちらから読むことができます!