ケーブルを4種類試して面白いと思ったのは、すべて共通して繊細なボーカル表現を行えたこと。つまり、EHP-R/HH1000Aの個性はそのままに、ケーブルがそれぞれの持ち味を発揮していた。イヤホンの力を殺さず、むしろ引き立て洗練させるのが、リケーブルの効果なのだろう。

ひとつ頭をよぎったのは「これ、全力でやったら収拾付かなくなりそう」ということ。多くの人は、様々な観点で「良い」と思うイヤホン×ポータブルプレーヤー(×ポータブルアンプ)の組み合わせで音を楽しんでいると思うのだが、ここに「×ケーブル」が加わってくると複雑になる。「×ケーブル」の存在がデフォルトになると、組み合わせの選択肢が大幅に増えるからだ。ポータブルオーディオの深い深い沼に引きずり込まれてしまいそうで恐いなあ、というのが本音である。

リケーブルは音楽鑑賞を楽しくするか

ただし、リケーブルすることで、イヤホンに対して「オレだけのお前」感が芽生えたのは言うまでもない。普段聴いているなじみの音が変化する様は非常に爽快で、イヤホンが自分にだけ新しい顔を見せてくれたような気持ちになる。これまでじっくりと聴きこみ、エージングしてきた愛機ならなおさらだろう。リケーブルは、ケーブルが断線したときの処置だけでなく、かわいいイヤホンをよりかわいがるための手段として有効であることが理解できた。

「今日はこのイヤホンとあのケーブルの気分! 」といった感覚で、毎日着る洋服のように組み合わせることはできないが、お気に入りのイヤホンに自分の色をつけるという意味ではお金を出す価値がある、というのが筆者の意見だ。付属イヤホンから3,000円のイヤホンに、そこから10,000円、30,000円のイヤホンに、と装備をステップアップさせた人がリケーブルに着目するようになるのは結構自然な流れなのかもしれない。