iOSユーザーがApple Musicを楽しむための「ミュージック」アプリのメニューの整理とシンプル化は、ユーザー体験を高める上で必須条件だと思う。今ある機能を少し削ってでも、日常の音楽体験を最適化するための新たなデザインは重要だ。

一方で、カタログの奥深さや、全く新しい音楽体験のイノベーションは、Apple Musicのユーザーを惹きつけ、また会員数を持続的に増加させることにつながるだろう。

もっとも簡単な方法は、Appleが手を下さないことだ。これまでiPhoneやiPadの魅力をアプリ開発者に作ってもらったように、Apple Musicについても、「アプリ開発者に任せてしまおう」というアイディアである。

Appleは、Apple Musicについて、少しずつ開発者に対して機能を与えてきた。例えばiOS 9.3では、サードパーティーのアプリから、Apple Music上のトラックを、自分のプレイリストに追加する機能などが実現された

Apple Musicの再生コントロール、曲の検索、プレイリストの管理、リンクや共有などを、アプリの機能として簡単に活用できるようにする「MusicKit」のようなものを開発者向けに用意して、Apple Music会員がダウンロードすれば、新しい音楽の聴き方を体験できるようにすれば良いのではないだろうか。

例えば、ひたすら最新のアニメソングだけを再生できるアプリや、起動してiPhoneをシェイクすれば、音楽が流れ始めるシャッフルアプリ、その楽曲が聴かれている場所のデータを採って「地図と音楽」の関係性を記録できるようにするアプリなど、いくらでもアプリのアイディアはあるはずだ。

それだけ、音楽は多くの人に楽しまれているし、膨大なカタログに自由にアクセスできること価値を、より大きな興奮を持って伝えることができる可能性があるはずだ。もちろん、そのアプリ経由でApple Musicの会員になったら、開発者に手数料を支払えば良い。Appleにとっても、悪い話ではないように思うのだが。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura