昆虫食やジビエ料理がひそかなブームとなりつつある。なんと今回、深海生物を食べさせてくれる店があるというので行ってきた。伺ったのは、東京・高田馬場にある宮下企画運営の「米とサーカス」。普段はシカやクマ、イノシシ、ダチョウ、ワニなどのジビエ料理を提供する居酒屋だ。

深海生物専門漁船「焼津 長兼丸」の漁師 長谷川久志氏

同店は4月15日より、深海生物専門漁船「焼津 長兼丸」の協力のもと、「春の深海生物祭り」と銘打って、同漁船が水揚げしたオオグソクムシ、エゾイバラガニ(通称:ミルクガニ)などの深海生物を使用したメニューを期間限定で提供するという。

オオグソクムシは、ワラジムシやフナムシ、ダンゴムシなどと同じ等脚目の生物。体長は10~15cmほどで、水深150~600mの深海に生息している。焼津 長兼丸の漁師 長谷川久志氏によると、「網に掛かった魚を食べてしまうので猟師にとっては厄介」な生き物なんだそう。テレビの取材で、実際には食べたことがないのに、冗談で「カルシウムたっぷりで、美味しいですよ」と言ってしまったことが、オオグソクムシを食用として考えるきっかけだったという。テレビ番組の影響で、海底の魚の死骸を食べる「海の掃除屋」というイメージがついてしまったが、長谷川氏によると、駿河湾で捕獲できるオオグソクムシは、主にサクラエビという小型のエビを食しているとのこと。

オオグソクムシ。店内の水槽の中で元気に泳いで(?)いた

一方、エゾイバラガニは、ヤドカリの仲間であるタラバガニ科の生物で、水深600~1600mの深海に生息。その名のとおり全身がトゲで覆われているのが特徴だ。駿河湾では、2009年の地震の影響でほとんどいなくなってしまったが、今年になってメスだけが帰ってきたという。「エゾイバラガニは、一度交尾を行うと、一生卵を産むことができるため、繁殖できているのでは」と長谷川氏。なお、そのままの名前ではあまり売れなかったが、食べるとミルクの味がすることから「ミルクガニ」と命名したことで食用としての人気が高まったという。

エゾイバラガニ。エゾイバラガニを含むタラバガニ科の生物は、実はカニではなくヤドカリの仲間で、5対10脚のうち最後尾の1対が腹部の下に隠れているため8本脚に見える

さて、前置きが長くなってしまったが、いよいよここから食レポに入る。まずは、オオグソクムシを二度揚げしたものをチリソースでいただく「オオグソクムシの和風チリソース」。

見た目は巨大なダンゴムシというか、フナムシというか……あまり食欲をそそられる感じはしない

殻ごとかぶりついてみた。

……硬い。ということで、身の部分を箸で掻き出して食べてみたのだが、たぶん美味しい。たぶん、というのは、はっきり判断できるほど身の量が多くないためだ。少しパサパサした感じはあるが、食感は焼き魚っぽく、エビのような味がしないでもない。

とはいえ、思っていたよりは抵抗なく口にすることができた。オオグソクムシの仲間で、ほかに食用の可能性がある生物はいるのだろうか。北九州市立いのちのたび博物館 甲殻類・貝類担当学芸員(自然史担当係長)の下村通誉氏に問い合わせたところ、「オオグソクムシの仲間はサイズが小さいものが多いので、おそらくございません」とのこと。

また、オオグソクムシを食べるということについて、「人間の好奇心は果てしないな、というのが正直な感想です。オオグソクムシに興味を持って、実物を見てみたいとか、飼育してみたいとか、触ってみたいと思う方はそれなりにいると思いますが、どんな味か知りたいというのはかなり突き抜けていると思います。なお、アメリカの研究者ジョージ・シュルツ氏が1969年に出版した書籍『Marine isopod crustaceans』の中で日本ではオオグソクムシの仲間を食用にしていると紹介しています。日本のどこでなどの情報はございませんが、当時から誰かがどこかで食べていたのかもしれません」(下村氏)とのコメントをいただいた。

味よりも、このいかにも"虫"っぽい食後の殻の形状のほうが印象に残っている。歯が丈夫(?)な方は殻まで食べていた

続いて「ミルクガニの丸焼き」をいただく。

脚の部分の身をいただく

あ、普通に美味しい

"ミルクガニ"という名前のとおり、乳製品のような甘みがあるうえ、水分量が多く甘エビのようなプリプリ感もある。これは美味しい、と断言できる。難点があるとすれば、鋭いトゲに阻まれて殻を剥きにくいことくらいだ。今回は丸焼きという形で提供されたが、長谷川氏によると、掻き揚げにしたり、ゆでたりしても美味しいらしい。また卵も食用可能で、塩辛などにして食べると絶品なのだそう。

また今回は、オオグソクムシとミルクガニをいただいたが、深海にはさまざまな種類の生物が生息している。本誌に何度か登場いただいている深海生物「テヅルモヅル」の研究者 茨城大学 岡西政典助教に聞いてみたところ「ルンフィウスというかなり昔の人が書いたインドネシアの風土記の中に、テヅルモヅルを塩ゆでにして、腕を全部切断して真ん中の部分の中にある生殖巣を食べていたという記録があります。私もいつか食べねばと思っています」とのコメントをいただいた。テヅルモヅル食が実現できれば、ぜひ本誌でレポートしたい。

テヅルモヅルの一種「セノテヅルモヅル」の標本。食べられる……のだろうか……

「春の深海祭り」は5月15日まで開催中。オオグソクムシやミルクガニが店舗で提供されるのは都内初だという。昆虫食ならぬ"深海生物食"に興味のある方は、足を運んでみてはいかがだろうか。

「春の深海祭り」実施概要

実施店舗:米とサーカス (〒169-0075 東京都新宿区高田馬場2丁目19-8)
実施期間:4月15日~5月15日
主催:宮下企画
協力:焼津 長兼丸、山喜本舗、オゾンネットワーク
提供メニュー:
・オオグソクムシの丸揚げ 1980円(税別)
・オオグソクムシの和風チリソース 1980円(税別)
・ミルクガニの丸焼き 3500円(税別)

※その他、ヌタウナギを使った料理も提供予定。また上記の深海メニューを注文した先着200組限定でオオグソクムシを使用した煎餅「オオグソクムシせんべい」が提供される。