日本電信電話(NTT)と東京理科大学は4月12日、窒化ガリウム(GaN)半導体において、アト秒(10-18秒)周期で振動する電子の動きを観測することに成功したと発表した。

同成果は、NTT物性科学基礎研究所と東京理科大学理工学部物理学科 須田亮教授らの研究グループによるもので、4月11日付けの英国科学誌「Nature Physics」に掲載された。

半導体デバイスの動作原理は、電界によって引き起こされる半導体電子系の高速の物理現象をもとに構築されている。半導体に光を照射した場合、本来、電子の応答はとても速く、その運動はアト秒の時間領域にまで達する。しかしながら、現在、利用されている半導体電子系の操作時間はピコ秒(10-12秒)程度。より高速な電子の動きを制御することで、半導体の新たな機能性を引き出せる可能性がある。物質中に存在する電子の動きは、レーザー光(光パルス)によってコマ撮りすることによって観測するが、この光パルスの時間(パルス幅)が短いほど高速な現象を捉えることができる。

NTT物性科学基礎研究所はこれまでに、アト秒の時間幅を持つ単一化された光パルスである「単一アト秒パルス光源」を開発し、高速な電子物性を解明する研究を進めてきた。今回、同研究グループは、単一アト秒パルスを用いてGaN半導体内部の光誘起に伴う電子の振動現象を計測することに成功した。

具体的には、近赤外領域のフェムト秒パルス(10-15秒)を励起光源として、GaN半導体中の電子を価電子帯から伝導帯へと遷移させた。この遷移に伴い分極が生じ、電子の振動(双極子振動)が引き起こされるが、単一アト秒パルスを時間掃引することにより、双極子振動をコマ撮りのように観測。過渡吸収分光法を用いて、双極子振動により変化するアト秒パルスの吸光度を測定したところ、計測された振動周期は860アト秒に達した。周波数は1.16PHzに相当し、これは過去に固体物質において観測された振動現象の中で、最も高い周波数に相当するという。

半導体電子系の超高周波応答の電子振動は、将来のデバイス動作の基礎原理に繋がる可能性があり、同研究グループは、さらなる解析を行う予定。また、今回の研究において計測した分極に伴う電子振動は、反射・吸収・屈折・回折・光電流・光放射といった半導体の機能に関わる多種の物理現象を引き起こすため、新たな応用に向けた研究開発を続けていく予定であるとしている。

過渡吸収分光法のイメージ図。近赤外領域のフェムト秒パルスをGaN半導体に照射し、分極に伴い生じる双極子振動を誘起する。同時に、任意の時間遅らせたアト秒パルスをGaN半導体に照射し、透過してきたパルス光を真空紫外分光器により検出。各時間において計測した透過率をもとに吸光度を導出する