米航空宇宙局(NASA)は3月1日(現地時間)、次世代の超音速旅客機の実現に向けた技術実証機「QueSST」を、米航空宇宙大手のロッキード・マーティンと共同開発すると発表した。

QueSSTは「Quiet Supersonic Technology」(静かな超音速飛行技術)の略からとられており、大文字の「SST」はSupersonic Transport(超音速機)にもかかっている。QueSSTは「ソニック・ブーム」と呼ばれる、超音速飛行に伴って生じる衝撃波の低減を目指す。ソニック・ブームは地上では爆発音のような騒音として聞こえ、また一般的な旅客機よりも高高度を飛行しても地上に届いてしまうことから、超音速旅客機の実現にとって妨げとなっている。

機体は想定される実機の2分の1のサイズで製造され、またパイロットが搭乗する有人機となるという。プロジェクトは2017会計年度(2016年10月~)から始まり、飛行試験の開始は2020年ごろに予定されている。

QueSSTはNASAの「新たな航空技術の地平線イニシアティヴ」(New Aviation Horizons initiative)計画の中で開発される。同計画は燃費向上や、温室効果ガスなどの排出量、騒音の低減などを目指した10カ年計画で、従来の航空機の形にとらわれない、まったく新しい航空機の姿が模索されることになっている。

NASAのチャールズ・ボウルデン長官は会見で、チャック・イェーガーが乗ったベル「X-1」による史上初の超音速飛行から約70年が経過したことにからめ、「私たちはこのX-1の遺産を受け継ぎ、実際に乗客を乗せて飛行する日を目指し、この静かな超音速機の開発に望みます。このイニシアティヴで、NASAは飛行をより環境にやさしく、安全で、静かなものにするため努力を続けます」と語った。

QueSSTの想像図 (C) Lockheed Martin

会見するNASAのチャールズ・ボウルデン長官 (C) NASA

超音速旅客機を復活を目指して

現在、乗客を乗せて各地の空港を結ぶ旅客機としての超音速機は存在しない。

1970年代に英国とフランスが「コンコルド」を共同開発し、最大マッハ2の速度で運航されていた。しかし、陸上を飛行する際にソニック・ブームが問題となり、海上でしか超音速飛行が認められなかった。また航続距離も短く、大西洋横断飛行を行うのがやっとであるなど、さまざまな問題を抱えていた。その後、2000年に起きた墜落事故の影響もあり、2003年に運航を終了している。

コンコルドと並行し、米国などでも超音速旅客機の開発計画はあったが、騒音や燃費といった技術的な問題や、オイルショックの発生、そして世間がジャンボジェット機のような、低速ながら多くの乗客を乗せ、長距離を飛行できる旅客機を求めたことがなどがあり、どれも実現しなかった。

しかし、移動時間を大幅に節約できることから、超音速旅客機を望む声は根強くあり、最近では米国のアエリオンという会社が、小型のビジネスジェット機クラスの超音速機の開発を行っている。

またNASAなども基礎研究を続けており、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も「低ソニックブーム設計概念実証プロジェクト」を実施し、コンピューターを使ったシミュレーションや模型を使った飛行試験を行うなど、超音速旅客機の復活に向けた研究開発が続けられている。

コンコルド (C) British Airways

【参考】

・NASA Begins Work to Build a Quieter Supersonic Passenger Jet | NASA
 http://www.nasa.gov/press-release/nasa-begins-work-to-build-a-quieter-supersonic-passenger-jet
・New Aviation Horizons Press Conference | NASA
 http://www.nasa.gov/image-feature/new-aviation-horizons-press-conference
・Quiet Supersonic X-plane To Be Designed - YouTube
 https://www.youtube.com/watch?v=x8r-Pm1-dVc