ベルギーの独立系先端半導体研究機関imecは、日本をはじめ海外の企業とも積極的に協業して、7nmおよびそれ以降のプロセス開発のための次世代リソグラフィ(多重露光液浸ArF露光およびEUV露光)の実用化を急いでいる。

Novaと協業して進める4重露光液浸ArF露光のCD計測

液浸ArFリソグラフィ(波長193nm)を用いた7nm技術ノードのデバイス製作に向けてimecと米国計測器メーカーのNova Measurement Instrumentsは、自己整合4重露光(Self-Alligned Quadruple Patterning:SAQP)のプロセスを精密に制御するための光波散乱計測(scatterometry)手法を開発し, 2月末に米国カリフォルニア州サンノゼで開催された「SPIE advanced Lithography Conference 2016」で発表した。

従来の測長SEMでは計測できなかったライン&スペースの周期構造の断面を非破壊で計測できるため、超微細構造のCD(critical dimension)計測に威力を発揮する。imecのプロセス開発担当SVPのAn Steegen氏は「Novaとの協業により、最先端の7nmデバイス製作向けのプロセスの精密な制御が可能になり、生産開始までの時間を短縮できるだろう」と述べている。

TELとInpria - 金属酸化物レジストでEUV露光

imecは同じSPIEにて、東京エレクトロン(TEL)および米Inpriaと共同で、EUVリソグラフィに従来のポジ型化学増幅型有機フォトレジストのかわりにネガ型金属酸化物フォトレジストを業界で初めて適用した微細加工プロセスを発表した。リソグラフィプロセスが従来より簡素化され、製造コストも低減できると言う。オランダASML製のEUV「NXE3300フルフィールド・スキャナ」、TEL製のドライエッチング装置、Inpria製のネガ型金属酸化物レジストを用いて、imecのクリーンルームでプロセス開発を行った。なお、Inperiaは米国オレゴン州立大学化学科からスピンオフしたEUVリソグラフィ用レジスト研究開発ベンチャーである。

具体的には、Inpriaが新たに開発したネガ型金属酸化物フォトレジストをimecの7nm BEOL(多層配線工程)モジュールに適用した結果が発表された。金属酸化物レジストは、エッチング耐性が有機レジストよりもはるかに高いため、ドライエッチングの際に薄膜スピンオン・ハードマスクの代わりにも使えるので、微細加工プロセスステップを簡略化できると言う。

JSRと共同でベルギーにEUVレジスト製造会社を設立

またimecはJSRとEUVリソグラフィ用フォトレジスト製造合弁会社「EUV Resist Manufacturing&Qualification Center(EUV RMQC)」をベルギー国内に設立した。EUV RMQCは、2015年5月に両社が調印した基本合意書に基づき、半導体リソグラフィ用材料やパッケージング用材料を現地製造しているJSR100%出資の子会社「JSR Micro」が過半を出資し、ベルギー・ルーベン市の同社敷地内に設立された(図1)。

図1 JSR Micro (ベルギー・ルーベン市)

EUVフォトレジストは、JSR Micro敷地内に新設される専用製造ラインで製造され、imecが所有する最先端EUV露光装置(図2)やその他のプロセス装置、imecの所有するノウハウを活用して品質保証が行われる。

図2 imecの450/300mmクリーンルームに設置されている300mmウェハ用の巨大なEUVリソグラフィ装置(蘭ASML製)。手前のコーター・デべロッパー「クリーントラック」(東京エレクトロン製)と接続されている (出所:imec)

EUV RMQCの社長兼JSR Micro取締役工場長であるBart Denturck氏は、「EUVリソグラフィは半導体製造技術が今後も発展していく上で必須の技術である。今後の業界ニーズに応えるべく、グローバルリーダーとして半導体技術の発展を支えてきた2社が互いの技術を持ち寄り従来の発想を超えて取り組む。EUV RMQCは、高品質材料の製造技術と最先端の装置を用いた品質管理に関する専門性と技術サービスの提供を担う。私たちは、今回の提携を通じて、EUVリソグラフィ技術開発の促進に貢献することができると確信している。」と語っている。

またimec SVPのAn Steegen氏は、「imecはEUVによる量産化技術確立のためにサプライチェーンをサポートすることに注力していく。JSRとの合弁会社の設立により、材料メーカーに最先端の装置やプロセスを提供することになり、imecが以前から行っていた材料メーカーへのサポートをより一段進める事になる。これは、両社が持つ強みを合わせることによって半導体業界全体の目標達成に貢献できる良い例になるだろう」と述べている。

7nm以降の実現に向け、プロセス開発を加速

なおimecは、ASMLとの1988年以来のリソグラフィ研究開発連携を強化しており、2013年秋にはimec内にAdvanced Patterning Centerを共同で設立し、ASML本社からEUVリソグラフィプロセス開発部隊を全員移動させている。そのため、現在、imecとASMLはいわば一心同体の関係にあり、さらに世界中の多数の企業、研究機関、大学とも協業することで、EUVリソグラフィの実用化に向けた中心地となっている。同時にimecは、オープンイノベーションを社是として、世界中の多数の半導体企業、製造装置・材料ベンダと協業して7nmプロセスの実用化、5nmおよびそれ以降のプロセス開発、さらには微細化に依存しない新規デバイス用プロセスなどの開発にも取り組んでおり、今後も半導体技術開発の中心地としての存在感を増していくことになりそうだ。